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元従業員から不当解雇で訴えられたら?会社の対応|解雇の有効性の判断枠組み、会社側の主張立証、バックペイの負担と解決の方針(使用者側)

公開 2015年7月20日更新 2026年10月30日

▶ 労働審判・労働訴訟への対応|申立てを受けた会社が最初にすべきこと(使用者側)

本記事は、解雇した元従業員から解雇の無効を主張され、労働審判の申立書や訴状を受け取った会社の経営者及び人事担当者の方に向けたものです。これから解雇を検討する段階にある方は、問題社員への対応|解雇の要件と、適法な退職勧奨の進め方(使用者側)をご覧ください。

解雇した元従業員から、解雇は無効であるとして、労働審判の申立書や訴状が届くことがあります。経営者の立場からは、「問題を起こした従業員を解雇しただけであり、正当な理由がある」と考えられることがほとんどですが、裁判所は、解雇の理由の有無だけでなく、その理由が客観的に合理的であり、解雇という手段が社会通念上相当であったか、そして会社がそれを証拠により立証できるかを判断します。結論から申し上げますと、不当解雇の主張を受けた会社が最初に行うべきことは、解雇の理由を裏付ける証拠と、解雇に至るまでの注意及び指導の記録を集めて解雇の有効性の見通しを立てることであり、そのうえで、解雇の有効性を争うか、解決金の支払による合意退職で解決するかの方針を、敗訴した場合の負担(解雇の日からの賃金、いわゆるバックペイ)を踏まえて早期に定めることです。本記事では、使用者側の立場から、不当解雇の主張の類型、解雇の有効性の判断枠組みと会社側の主張立証、敗訴した場合の金銭的な負担、及び解決の方針の立て方を解説します。

労働審判の手続の流れは、関連記事「労働審判・労働訴訟への対応|申立てを受けた会社が最初にすべきこと(使用者側)」を、解雇の要件全般は、関連記事「問題社員への対応|解雇の要件と、適法な退職勧奨の進め方(使用者側)」を御覧ください。

⇒労働審判・労働訴訟への対応(申立てを受けた会社が最初にすべきこと)はこちら

不当解雇の主張の二つの類型

解雇無効を前提とする地位確認と賃金の請求

元従業員が解雇の無効を主張する場合、通常は、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、解雇の日以降の賃金の支払を請求します。解雇が無効であれば労働契約は継続しており、元従業員は会社の責めに帰すべき事由により就労できなかったものとして、解雇後の賃金全額を請求することができます(民法第536条第2項)。この請求は、紛争が長引くほど金額が増大する点に特徴があります。元従業員の多くは実際には職場への復帰を望んでいませんが、金銭的に有利であるため、この形式で請求することが一般的です。

解雇を違法として損害賠償を請求する場合

解雇の無効ではなく、解雇が不法行為に当たるとして慰謝料等の損害賠償を請求する場合もあります。この場合、労働契約の終了自体は争われませんが、解雇の態様が著しく不当である場合には慰謝料が認められます。もっとも、解雇が無効と判断される場合であっても、慰謝料が認められる例は限られており、金額も賃金の請求に比べれば少額にとどまることが通常です。

解雇の有効性の判断枠組み

普通解雇

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効です(労働契約法第16条)。勤務成績の不良、勤務態度の不良、協調性の欠如、業務命令違反等を理由とする普通解雇については、就業規則に定める解雇事由に該当する事実が存在すること、その事実が客観的な証拠により認められること、会社が注意及び指導を繰り返し行い改善の機会を与えたこと、配置転換等の解雇以外の手段を検討したこと、及び他の従業員との均衡が問われます。裁判所は、解雇事由に該当する事実があっても、指導の記録がない場合や、改善の機会を与えずに解雇した場合には、解雇を相当でないと判断する傾向にあります。

懲戒解雇

懲戒解雇については、就業規則に懲戒事由と懲戒解雇の定めがあり、それが周知されていること、懲戒事由に該当する事実が証拠により認められること、弁明の機会を与えたこと、及び処分が行為の性質と態様に照らして相当であること(労働契約法第15条)が必要です。懲戒解雇の理由として後から追加した事実は、原則として考慮されません。懲戒解雇の要件については、関連記事「懲戒解雇に踏み切る前に確認すべき要件と手続」を御覧ください。

整理解雇

経営上の理由による解雇については、人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、及び手続の相当性の四つの要素を総合して判断されます。希望退職の募集や配置転換の検討を経ずに行った整理解雇は、無効と判断されるおそれが高いです。

手続に関する規制

解雇の予告又は解雇予告手当の支払(労働基準法第20条)、業務上の負傷若しくは疾病による療養のための休業期間及び産前産後の休業期間とその後30日間の解雇制限(同法第19条)、解雇理由証明書の交付(同法第22条)、並びに国籍、信条、社会的身分、性別、労働組合活動、育児休業や介護休業の申出、ハラスメントの相談等を理由とする解雇の禁止(同法第3条、労働組合法第7条、男女雇用機会均等法第6条、第9条、育児介護休業法第10条、第16条、労働施策総合推進法第30条の2第2項等)にも注意が必要です。予告手当の不払は解雇を直ちに無効とするものではありませんが、会社の対応の相当性の評価に影響します。

会社側の主張と立証

証拠の収集と整理

申立書又は訴状を受領した後、直ちに次の資料を収集します。就業規則及び解雇事由の定め、雇用契約書、解雇通知書及び解雇理由証明書、解雇の理由となった事実を示す資料(顧客からの苦情、業務上のミスの記録、勤怠の記録、業務命令の記録とこれに対する対応、社内調査の結果等)、注意及び指導の記録(指導書、面談の記録、電子メール、改善計画とその結果)、配置転換や降格等の検討の経緯、及び他の従業員に対する同種の事案の処分の例です。関係者からは早期に事情を聴取し、陳述書の作成に備えます。元従業員が保有すると思われる資料については、文書提出命令の申立て等により提出を求めることも検討します。

主張の組立て

会社側の主張は、解雇の理由となった事実を時系列に沿って具体的に示し、それぞれの事実を裏付ける証拠を対応させ、会社が行った注意及び指導と、それにもかかわらず改善が見られなかった経過を明らかにし、解雇以外の手段を検討した経緯を示すという構成が基本です。抽象的に「勤務態度が悪かった」と主張するだけでは足りず、いつ、どのような行為があり、それに対して会社がどう対応したかを示す必要があります。解雇の後に判明した元従業員の非違行為(横領、背任、競業行為等)は、普通解雇の理由として事後的に追加することには制約がありますが、解雇の相当性の判断や解決金の交渉において考慮され、別途の損害賠償請求の根拠にもなります。実務上、不当解雇の主張を受けたことを契機に社内調査を行った結果、元従業員の不正が判明する事例は少なくありません。

解雇の後に元従業員の横領・背任などの不正が判明した場合の調査と損害賠償請求は、次のページでご案内しています。

敗訴した場合の金銭的な負担

解雇後の賃金(バックペイ)

解雇が無効と判断された場合、会社は、解雇の日から判決の確定又は復職までの期間の賃金を支払わなければなりません。労働審判で解決せずに訴訟に移行し、第一審判決まで1年から1年半、控訴審まで更に半年から1年を要した場合、月額の賃金に2年から3年分を乗じた金額となります。賞与についても、支給額が就業規則等により確定していれば請求の対象となります。

中間収入の控除

元従業員が解雇後に他で就労して収入を得ていた場合、その収入(中間収入)は、支払うべき賃金から控除することができます。ただし、控除できるのは、平均賃金の6割を超える部分に限られ(労働基準法第26条の趣旨によります。)、かつ、その収入が発生した期間に対応する賃金からのみ控除することができるとされています。元従業員の解雇後の就労状況と収入は、会社側から立証を求めるべき事項です。

その他の負担

解雇後の賃金には遅延損害金が付され、解雇の態様によっては慰謝料が加算されます。加えて、復職を命じられた場合には、職場において当該従業員を受け入れるための対応が必要となります。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

解決の方針の立て方

争うか、合意退職で解決するか

解雇の有効性の見通しが十分に高い場合には、解雇の有効性を主張して争います。他方、注意及び指導の記録が乏しい場合や、解雇事由の立証が難しい場合には、解雇の有効性を争いつつも、解決金の支払と引換えに退職を合意する内容での和解を早期に図ることが、バックペイの累積を防ぐうえで合理的です。元従業員の多くは職場への復帰を望んでいないため、退職を前提とする金銭解決は現実的な選択肢です。

解決金の水準

解決金の水準は、解雇の有効性の見通し、元従業員の賃金額、解雇からの経過期間、再就職の状況、及び会社が元従業員に対して有する請求権の有無等により大きく異なります。労働審判の調停においては、労働審判委員会の心証を踏まえ、賃金の数か月分から1年分程度の範囲で解決する例が多く見られますが、解雇の有効性が明らかに乏しい事案ではこれを上回ることもあります。会社は、解雇の有効性の見通しと、争った場合のバックペイの累積額を比較して、応じられる上限を事前に定めておきます。

和解の条項

和解に際しては、退職日と退職の理由(会社都合か自己都合か)、解決金の額、支払期限及び性質、社会保険と雇用保険の手続、離職票の記載、未払賃金や退職金の清算、清算条項、口外禁止条項、並びに会社が元従業員に対して損害賠償請求権を有する場合のその処理を定めます。

不当解雇を主張する労働審判・訴訟への対応を含む使用者側の労働問題は、次のページで総合的にご案内しています。

紛争を予防するために

不当解雇の主張を受けないためには、解雇を行う前に、就業規則の解雇事由の整備、問題行動に対する注意及び指導の記録、改善の機会の付与、配置転換等の検討、並びに解雇の理由と手続の確認を行うことが必要です。解雇を検討する段階で弁護士に相談すれば、解雇が可能か、退職勧奨による合意退職を選ぶべきか、必要な記録は何かを整理することができます。退職勧奨の限界については、関連記事「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」を御覧ください。

弁護士に相談する時期と、費用の考え方

労働審判の申立書は、受領から第1回の期日まで3週間から4週間しかなく、この間に答弁書と証拠を準備する必要がありますので、申立書又は訴状を受領した当日に御相談いただくことをお勧めします。当事務所では、使用者側の立場から、解雇の有効性の見通しの分析、証拠の収集と整理、答弁書及び準備書面の作成、期日への出席、和解交渉と和解条項の作成、並びに元従業員の非違行為が判明した場合の損害賠償請求を取り扱っています。費用は、事案の内容、請求額及び関与の範囲に応じて事前に御説明します。

⇒労働審判・労働訴訟への対応(申立てを受けた会社が最初にすべきこと)はこちら

よくあるご質問

問題を起こした従業員を解雇しただけです。なぜ争われるのですか。

裁判所は、解雇の理由があるかだけでなく、その理由が客観的に合理的で、解雇という手段が相当であり、会社がそれを証拠により立証できるかを判断します。問題行動があっても、注意及び指導の記録がなく、改善の機会を与えていない場合には、解雇は無効と判断されるおそれがあります。

元従業員は職場に戻る気がないのに、地位確認を求めています。なぜですか。

解雇無効を前提とする賃金の請求は、紛争が長引くほど金額が増大し、慰謝料の請求よりも金銭的に有利であるためです。実務上は、退職を前提とする解決金の支払により和解することが多くあります。

元従業員は解雇後に他社で働いています。賃金は全額支払わなければなりませんか。

他社での収入(中間収入)は、平均賃金の6割を超える部分について、その収入が生じた期間に対応する賃金から控除することができます。元従業員の就労状況と収入を確認し、立証を求めます。

解雇の後に横領が判明しました。解雇は有効になりますか。

解雇の時点で会社が認識していなかった事実を解雇の理由として事後的に追加することには制約がありますが、解雇の相当性の判断や和解の交渉において考慮され、別途の損害賠償請求の根拠となります。直ちに証拠を保全し、弁護士に相談してください。

解雇予告手当を払っていませんでした。解雇は無効ですか。

予告手当の不払のみで解雇が直ちに無効となるわけではなく、予告手当の支払義務が残るとともに、会社の対応の相当性の評価に影響します。速やかに支払うことを検討してください。

まとめ

不当解雇の主張を受けた会社は、解雇の理由を裏付ける証拠と注意及び指導の記録を集めて解雇の有効性の見通しを立て、争うか合意退職で解決するかの方針を、解雇後の賃金の累積という負担を踏まえて早期に決める必要があります。解雇の有効性は、就業規則の定め、事実の立証、指導の経過、解雇以外の手段の検討、及び手続の適法性により判断され、抽象的な主張では認められません。申立書又は訴状を受領した場合には、直ちに使用者側の労働問題を取り扱う弁護士に御相談ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継、企業法務及び不動産に関する法律問題

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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