この記事の位置付け
本ページは、問題社員への対応と雇用の終了に関する実務に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 問題社員への対応|辞めさせる前に踏むべき手順を弁護士が解説(使用者側)
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会社に突然、本人ではなく退職代行を名乗る者から連絡が届くと、誰と話せばよいのか、翌日から出勤しないことを認める必要があるのか、引継ぎや貸与品をどう扱うかが問題になります。感情的に拒絶するのではなく、本人の意思の伝達と、退職条件をめぐる交渉とを分けて確認することが出発点です。
会社がまず整理するのは、通知者の立場と権限、本人の意思、契約の期間、希望する退職日、未処理の賃金や年次有給休暇です。退職の効力に争いがある場合でも、賃金の支払や証明書の交付を交渉のために止めてよいわけではありません。本記事では、通知を受けた会社側の確認と対応を説明します。会社から退職を提案する退職勧奨とは、出発点が異なります。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
退職をめぐる対応は、どちらから働きかけたかによって検討すべき事項が異なりますので、次のとおり切り分けます。
- 従業員の側から、退職代行を通じて退職の通知が届いた場面……本記事
- 会社の側から退職を働きかける場面……従業員の退職勧奨の方法
- 退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点を確認する場面……退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点
- 労働組合から団体交渉の申入れを受けた場面……合同労働組合(ユニオン)から団体交渉の申入れを受けた会社の対応(使用者側)
- 退職後に未払残業代の請求を受けた場面……元従業員からの残業代の請求を受けた場合の対応|反論の類型(労働時間・固定残業代・管理監督者・時効)と和解の実務(使用者側)
通知者の立場と依頼の範囲を確認します
最初の連絡は、電話のメモだけで終えず、通知全文と受領日時を残します。連絡者の名称、本人との関係、何を求めているかを確認し、会社側の窓口を定めます。退職の意思を伝えているだけなのか、退職日、金銭、有給休暇などについて会社との調整を求めているのかを分けて整理してください。
意思の伝達と交渉を区別します
本人の決めた意思を伝えることと、本人に代わって法律上の争いを交渉することは同じではありません。一般事業者、弁護士、労働組合では、確認すべき権限や対応が異なります。名称に「代行」と書かれていることだけで、すべての交渉権限があるとも、連絡を無視してよいとも判断しません。
弁護士が代理人として通知している場合には、受任範囲と連絡先を確認します。労働組合から団体交渉の申入れもある場合には、単なる退職連絡とは別に、労働組合法に基づく対応を検討します。交渉の権限に疑問がある場合は、その疑問と必要な確認事項を整理し、会社の弁護士と回答方針を検討します。
本人の意思と確認方法を整理します
本人がどの内容を依頼したか分からない場合には、意思や権限を確認できる資料の提示を求めることを検討します。ただし、会社の指定する書式がないという理由だけで、既に到達している意思表示を存在しなかったことにしないようにします。追加の確認が必要な点と、通知から既に分かる点を分けます。
本人への直接連絡は、代理人の有無、連絡を求めない理由、健康状態、緊急性等を踏まえて判断します。会社が納得するまで出社させることを確認の条件にするのではなく、書面や代理人を通じた確認を含め、必要な目的を達成できる方法を選びます。
退職日と出勤の扱いは別々に確認します
通知に「本日で退職します」と書かれていても、雇用関係の終了日、最終出勤日、年次有給休暇の期間は区別して確認します。雇用契約の期間の定め、会社との合意の有無、通知の内容によって検討すべき法的な枠組みが変わります。社内の給与締切日だけで退職日を決めないようにします。
期間の定めがない契約の場合
民法第627条第1項では、期間を定めない雇用について解約の申入れから2週間を経過することにより終了することが定められています。ただし、通知が一方的な辞職の意思表示なのか、会社の承諾を求める合意退職の申込みなのかによっても整理が異なります。「退職願」「退職届」という表題だけでなく、文面と経過を確認します。
就業規則に退職の申出期限が書かれている場合にも、その規定だけを根拠に本人を無期限に拘束できるわけではありません。通知の到達日、希望日、合意の可否を確認します。会社が早い退職日に合意する場合は、その日付と残る処理を記録し、いつまで在籍しているのかが曖昧なまま給与や保険の処理を進めないようにします。
期間の定めがある契約の場合
有期契約の途中の退職は、無期契約と同じ説明だけで処理しません。民法第628条のやむを得ない事由、会社との合意、労働基準法第137条の適用等を確認します。同条には、1年を超える一定の有期契約について契約初日から1年経過後の退職を認める規定がありますが、対象と例外があるため、契約期間だけを見て適用を断定しないことが必要です。
病気、介護、職場の状況等が理由として伝えられている場合は、その事情を把握します。法律上の要件の判断と、会社が合意により早期の退職を受け入れるかという判断は別です。事業への影響、代替要員、本人の状態等を整理して対応します。
有給休暇と賃金を交渉の条件にしません
出社せず退職まで年次有給休暇を取得したいという連絡がある場合には、付与日、残日数、申請日、所定労働日、退職予定日を確認します。退職代行を利用したことを理由に一律に認めないという扱いは避けます。欠勤、休暇、会社が就労を免除する期間を給与計算でも区別する必要があります。
退職前の休暇申請を確認します
年次有給休暇については労働基準法第39条に沿って判断します。事業の正常な運営を妨げる場合の時季変更の問題と、退職日後へ休暇を移せないという問題を分けて検討します。引継ぎが終わらないという理由だけで、残日数を確認せずすべて拒否しないようにします。
本人との間で最終出勤日や引継ぎの方法を調整することは考えられますが、休暇の権利がないことにして合意を得る方法は適切ではありません。話し合いの対象となる事項と、法律上会社が履行すべき事項を分けて提示してください。
未払賃金と返却物を交換条件にしません
労働基準法第23条は、退職の場合に権利者から請求があったときの賃金や金品の返還を定めています。争いのある部分とない部分がある場合には、その区別も必要です。通常の給与支払日だけを前提に、請求への対応を先送りしないようにします。
会社のパソコンが返ってこない、引継ぎが足りないという事情があっても、賃金から当然に損害額を控除できるわけではありません。同法第24条の賃金全額払いの原則を踏まえ、賃金の支払と会社の返還・賠償請求を別に検討します。未払残業代の請求が併せて届いた場合には、その対象期間と計算根拠も別表に整理します。
引継ぎと会社財産の返還を具体化します
突然の退職連絡があった場合、会社が困るのは、担当案件の進行、顧客との連絡、貸与機器、データへのアクセス等です。「すべて引き継ぐまで退職を認めない」という回答にまとめるより、何が不足し、どの方法で確認できるかを具体化します。本人以外から確認できる事項は社内でも並行して整理します。
業務の継続に必要な事項を絞ります
担当案件、次の期限、関連資料の保管場所、連絡が必要な顧客を一覧にします。本人に確認を求める事項は、回答可能な単位に分けます。代理人等の窓口がある場合は、その窓口を通じて方法と時期を調整します。勤務を続ける意思がない本人に、際限なく新しい作業を要求することは避けてください。
顧客への説明は、業務の継続に必要な内容にとどめます。退職代行を使ったことや個人的な事情を広く知らせると、新たな対立を生むおそれがあります。後任の担当者と連絡方法を明確にすることを優先します。
貸与品と電子資料は一覧で扱います
会社が貸与した機器、鍵、入館証、書類等を特定し、返却方法、送付先、発送記録を確認します。私物の返還が必要な場合は、会社の貸与品と分けて管理します。紛争があるときほど、何を返却したかが分かる記録を残すことが重要です。
会社の電子記録を削除させてから確認しようとすると、業務の引継ぎや紛争の検証に必要な資料を失うことがあります。記録の保存とアクセス権の変更を分け、業務継続、情報管理、証拠保全の観点から方法を決めます。個人の私的アカウントや端末へのアクセスを無断で広げることは避けてください。
別の請求や団体交渉がある場合の対応
退職の通知とともに、未払賃金、ハラスメント、慰謝料などの請求が示されることがあります。退職日について合意できたとしても、これらの請求まで解決したとは限りません。通知を項目ごとに分け、会社が認める事実、争う事実、確認が必要な事実を整理します。
退職処理と紛争対応を分けます
人事担当者が通常の退職書類を用意する一方で、請求に関する回答は資料の確認後に行うなど、作業を分担します。相手方から届いた書類に清算条項がある場合には、何の請求を対象とするのか、会社側の返還請求等も含まれるのかを確認してください。単に退職日を確認するつもりで、別の事項まで約束しないようにします。
本人が会社に損害を与えたと考える場合も、損害の発生、本人の行為との関係、金額の根拠を確認します。退職代行を利用したことだけで損害賠償責任が生じると決め付けたり、請求を示して退職の撤回を迫ったりする対応は避けます。
団体交渉の申入れを見落とさないようにします
労働組合が通知している場合には、団体交渉を申し入れているかを確認します。使用者には正当な理由のない団体交渉拒否が禁止されています(労働組合法第7条第2号)。会社の外部の組合であることや、加入者が1名であることだけを理由に拒絶しないようにします。
他方、交渉へ誠実に対応することと、すべての要求を受け入れることは異なります。争点、会社が説明できる根拠、開示資料、日時等を整理して回答します。退職代行への連絡対応という名目だけで、労働組合との交渉を一般事業者への対応と同じにしないことが重要です。
会社の回答を記録し、残る処理を管理します
回答は、通知の受領、確認できた意思、未確認事項、退職日の扱い、給与や書類の処理、貸与品等の返還を区分すると、行き違いを防ぎやすくなります。一つの項目に争いがあるために、すべてを止める必要があるかは別途検討します。回答後に追加の通知が届いた場合は、どの事項が変更されたかを記録します。
人事、給与、情報管理の担当者で共有します
人事の把握する退職日と、給与担当者が計算に使う日付、情報管理担当者がアクセスを停止する日付が異なると、過払い、未払い、業務中断等が生じるおそれがあります。確定した事項、暫定の事項、相手方との確認中の事項を分けて社内へ伝えます。
退職時の証明書について本人から請求がある場合には、労働基準法第22条に沿って対応します。本人が求めていない事項まで記載したり、次の就職を妨げるために情報を伝えたりしないようにします。雇用保険や社会保険の処理も、実際の退職経緯と日付に沿って確認します。
相談時には現在の未決事項を伝えます
弁護士へ相談するときは、通知全文、受領日、契約期間、希望退職日、会社が既に回答した内容を伝えると、先に判断すべき事項が整理しやすくなります。未払賃金の請求、団体交渉、裁判所の通知がある場合は、その有無と期限を先に知らせてください。
資料がすべてそろうまで待つ必要はありません。手元にあるものと不明なものを区別し、会社として困っている業務や、相手方と意見が違う点を具体的に伝えます。弁護士法人M&A総合法律事務所は、使用者側の立場から、通知への回答や退職に伴う労働紛争について御相談を承ります。
よくある御質問
退職代行の通知には複数の問題が含まれます。以下は一般的な整理であり、具体的な通知内容、契約及び経緯によって判断は異なります。
会社が退職届を受け取っていなければ退職は無効ですか
会社所定の退職届がないという理由だけで判断できません。通知の内容、本人の意思、到達の事実、契約類型を確認します。意思の確認が必要な点があれば、方法を具体的に示して確認します。
本人が出社しなければ話合いを拒んでもよいですか
出社だけを条件にせず、代理人や書面を通じた確認を含めて検討します。健康上の事情が伝えられている場合はその事情にも配慮します。必要な確認事項を特定し、出社させること自体を目的にしないようにします。
引継ぎ不足を理由に最後の給与を止められますか
賃金の支払と引継ぎ、返却物、損害の問題は分けて判断します。引継ぎに不満があることから当然に賃金を留保したり控除したりできるわけではありません。必要なら会社の請求根拠と適切な手続を別に検討します。
すべての退職代行が団体交渉を行えるのですか
通知者の名称だけでは判断できません。労働組合による団体交渉の申入れなのか、弁護士の代理交渉なのか、一般事業者による連絡なのかを確認します。それぞれの立場と権限に応じて対応します。
退職日に合意すれば未払残業代の請求も終わりますか
退職日の合意だけで別の請求まで解決するとは限りません。請求の内容と合意の対象を確認します。清算条項を設ける場合にも、範囲と説明経過を整理し、書類の表題だけで判断しないようにします。
まとめ
退職代行から通知を受けた会社は、通知者の権限、本人の意思、契約の期間、退職日、休暇、賃金、引継ぎを分けて整理します。本人に直接会えないことへの不満から一律に拒否するより、確認が必要な事項を具体的に示すことが重要です。
無期契約と有期契約、意思の伝達と代理交渉、退職処理と残る請求では、それぞれ確認する枠組みが異なります。会社所定の書式や引継ぎの不足だけで法律上の効果を決めず、契約・通知・資料を対照します。
賃金や証明書など会社が履行すべき事項は、争いのある問題と分けて処理します。記録の保存、担当者間の日付の共有、回答内容の管理を行い、追加請求や団体交渉がある場合は対応を一本化します。複数の担当者が別々の退職日や支払条件を伝えないよう、確定事項と確認中の事項を区別してください。結論は個別の事実関係により異なりますので、通知への回答に迷われる場合は、届いた文書と現在の状況を御用意のうえ御相談ください。


















