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本ページは、問題社員への対応と雇用の終了に関する実務に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 問題社員への対応|辞めさせる前に踏むべき手順を弁護士が解説(使用者側)
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採用した従業員について、入社後2か月から3か月の間に、遅刻や欠勤が多い、指示を理解できない、経歴から期待した能力に及ばない、職場になじめないといった問題が見えてくることがあります。経営者の立場では、「試用期間中なのだから本採用しなければよい」と考えられることが多いのですが、結論から申し上げますと、試用期間中の従業員との労働契約は既に成立しており、本採用の拒否は法律上は解雇に当たりますので、通常の解雇よりは広い範囲で認められるものの、無条件に認められるわけではありません。本採用を拒否するためには、試用期間中に生じた具体的な事実に基づき、指導と改善の機会を与えたうえで、それでも従業員としての適格性を欠くと判断される客観的な理由が必要です。また、試用期間の延長は、就業規則の根拠又は本人の同意がなければ行うことができません。本記事では、使用者側の立場から、試用期間の法的な性質、本採用を拒否できる場合とその手続、試用期間の延長の可否、及び試用期間中の労働条件に関する誤解を解説します。
新入社員の問題行動への具体的な対応は、関連記事「新入社員の問題行動13事例と、企業が採るべき対応」を、本採用後の従業員の解雇の要件は、関連記事「問題社員への対応|解雇の要件と、適法な退職勧奨の進め方(使用者側)」及び「懲戒解雇に踏み切る前に確認すべき要件と手続」をご覧ください。
試用期間の法的な性質
解約権が留保された労働契約
試用期間は、法律上の定義のある制度ではなく、就業規則や労働契約により会社が設ける期間です。最高裁判所の判例上、試用期間を設けて雇用された従業員との労働契約は、試用期間の開始の時点で成立しており、会社は、試用期間中に従業員としての適格性を欠くことが判明した場合に契約を解約する権利を留保しているにすぎない(解約権留保付労働契約)と理解されています。したがって、本採用の拒否は、留保された解約権の行使、すなわち解雇であり、労働契約法第16条の解雇権濫用法理の適用を受けます。もっとも、試用期間は、採用の決定の時点では把握できなかった従業員の資質、性格及び能力を実際の勤務を通じて観察し、最終的な採用の可否を判断するための期間ですので、留保された解約権の行使は、通常の解雇の場合よりも広い範囲において認められると解されています。具体的には、採用の決定の時点で会社が知ることができず、また知ることを期待できなかったような事実を試用期間中に知り、その事実に照らして当該従業員を引き続き雇用することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨及び目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得る場合に、本採用の拒否が認められます。
試用期間中の解雇予告
試用期間中の従業員であっても、雇入れの日から14日を超えて引き続き使用されている場合には、解雇に際して30日前の予告又は30日分以上の平均賃金の支払(解雇予告手当)が必要です(労働基準法第20条及び第21条第4号)。雇入れの日から14日以内に解雇する場合には予告は不要ですが、この14日という期間は解雇予告の要否の基準にすぎず、14日以内であれば自由に解雇できるという意味ではありません。14日以内の解雇であっても、解雇権濫用法理の適用を受けます。
有期労働契約を試用の目的で用いる場合
採用に際して、期間を3か月又は6か月とする有期労働契約を締結し、期間満了時に正社員として採用するか否かを判断するという運用が見られます。しかし、最高裁判所の判例上、有期労働契約が労働者の適性を評価し判断するための期間として設けられたものである場合には、期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が別途成立しているといえる特段の事情がない限り、当該期間は契約の存続期間ではなく試用期間であると解されるとされています。したがって、この運用によっても、期間満了の際に正社員として採用しないという判断は、契約期間の満了による終了ではなく、本採用の拒否すなわち解雇として扱われ、前記の要件を満たす必要があります。有期労働契約を用いれば試用期間の規制を回避できるという理解は誤りです。
本採用を拒否できる場合
理由の類型と判断の要点
本採用の拒否の理由として実務上問題となるのは、次の類型です。第一に、経歴の詐称です。学歴、職歴、資格又は前職の退職の理由について、採用の判断に影響する重要な事項を偽っていた場合には、本採用の拒否が認められやすい類型です。ただし、詐称の対象となった事項が採用の判断において重要であったこと、及び会社が真実を知っていれば採用しなかったといえることが必要です。第二に、勤務態度の不良です。正当な理由のない遅刻、欠勤、無断欠勤、業務命令への不服従、職場の秩序を乱す言動等について、その回数、態様及び注意指導の経過を記録しておくことが必要です。第三に、能力の不足です。中途採用において、特定の職務の経験と能力を前提として採用した従業員が、当該職務を遂行する能力を明らかに欠いている場合には、比較的認められやすい類型ですが、新卒採用の場合には、入社直後の能力の不足は当然に予定されていますので、指導と教育を尽くしたことが求められます。第四に、協調性の欠如です。この類型は、本人の主観的な性格に関する評価に流れやすく、具体的な事実の裏付けを欠くと認められません。第五に、健康上の理由です。業務の遂行に支障を生じる健康上の問題が判明した場合ですが、配置の転換等により就労が可能であるか否かの検討を要します。
指導と改善の機会
いずれの類型においても、試用期間の趣旨は従業員を観察し評価することにありますので、会社は、問題となる事実を把握した時点で本人に指摘し、改善を求め、改善のための指導を行い、その経過を記録することが求められます。具体的には、問題行動の日時、内容、注意した者、注意の内容、本人の反応及びその後の改善の有無を、指導の都度、記録します。面談を行った場合には、面談の記録を作成し、可能であれば本人の署名を得ます。指導も改善の機会の付与もないまま試用期間の満了の直前に本採用を拒否した場合には、拒否の理由が真実であったとしても、社会通念上の相当性を欠くと判断されるおそれがあります。
本採用拒否の手続
本採用を拒否する場合には、試用期間の満了日までに、書面により、本採用を拒否する旨、その理由及び雇用の終了の日を通知します。雇入れの日から14日を超えている場合には、30日前の予告又は解雇予告手当の支払が必要です。試用期間の満了日を過ぎてから本採用の拒否を通知した場合には、本採用がされたものとして扱われ、通常の解雇としての要件を満たす必要が生じますので、満了日の管理は厳格に行います。従業員から解雇の理由を記載した証明書の交付を求められた場合には、遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条)。証明書に記載する理由は、後の紛争において会社の主張を拘束しますので、記録に基づき正確に記載します。なお、本採用の拒否に先立ち、退職勧奨により合意による退職を図ることも考えられますが、退職を強要したと評価されないよう、関連記事「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」の限界を守る必要があります。
試用期間の延長
試用期間の満了の時点で、本採用の可否を判断するには観察が不十分である、又は改善の兆しが見られるため今しばらく様子を見たいという場合に、試用期間の延長が検討されます。試用期間の延長は、従業員を不安定な地位に置く期間を長くするものですので、就業規則に延長の可能性、延長の事由及び延長の期間の上限が定められているか、又は本人の真意に基づく同意がある場合に限り、認められると解されています。就業規則の定めに基づいて延長する場合であっても、延長の理由が合理的であること、及び延長の期間が必要な範囲にとどまることが必要です。延長に際しては、延長の理由、延長後の満了日及び延長期間中に改善を求める事項を書面により本人に通知します。なお、試用期間の長さ自体について法律上の上限はありませんが、一般に3か月から6か月程度とされており、当初から1年を超えるような長期の試用期間や、繰り返しの延長は、その合理性が問われることになります。
試用期間中の労働条件に関する誤解
試用期間中の従業員について、次のような誤解に基づく取扱いが見られますので、注意が必要です。第一に、社会保険(健康保険及び厚生年金保険)並びに雇用保険の加入は、雇入れの日から必要であり、試用期間中であることを理由に加入を遅らせることはできません。第二に、試用期間中の賃金を本採用後より低く設定すること自体は可能ですが、最低賃金を下回ることはできません。試の使用期間中の者について最低賃金の減額の特例(最低賃金法第7条第2号)を適用するには、都道府県労働局長の許可が必要であり、許可なく最低賃金を下回る賃金を支払うことはできません。第三に、年次有給休暇の付与の要件である6か月の継続勤務(労働基準法第39条第1項)には、試用期間も算入されます。第四に、試用期間中であっても、労働時間、休憩、休日及び割増賃金に関する労働基準法の規律は全面的に適用されます。第五に、労働契約の締結に際しては、試用期間の有無と長さを含む労働条件を書面により明示する必要があります(労働基準法第15条第1項及び労働基準法施行規則第5条)。試用期間の定めが労働条件通知書にも就業規則にもない場合には、試用期間の合意が認められず、入社の当初から本採用の従業員として扱われるおそれがあります。
予防のための整備
本採用の拒否をめぐる紛争を防ぐためには、採用の段階と試用期間中の運用の双方を整えることが重要です。採用の段階では、応募者の経歴について、卒業証明書、資格証明書及び前職の在籍の確認等の裏付けを取り、面接において業務に関係する事項を具体的に確認します。試用期間中は、期間の開始時に評価の基準と観察の項目を本人に伝え、中間の時点で面談を行って評価と改善を求める事項を伝え、満了の1か月前までに本採用の可否の判断を行うという日程を定めておきます。就業規則には、試用期間の長さ、延長の事由と期間の上限、本採用を拒否する事由及びその手続を定めます。これらの整備は、紛争の予防にとどまらず、適格性を欠く従業員を試用期間内に見極めるという試用期間本来の目的を達するために不可欠です。
弁護士に相談する時期と、費用の考え方
本採用の拒否は、試用期間の満了日という期限のある判断であり、期限を過ぎると通常の解雇としての要件が求められます。本採用の可否に疑問が生じた時点、遅くとも満了日の1か月前までにご相談いただくことをお勧めします。当事務所では、使用者側の立場から、本採用の拒否の可否の検討、指導記録の整備に関する助言、本採用拒否の通知書及び解雇理由証明書の作成、試用期間の延長の手続、就業規則の試用期間に関する定めの整備、並びに本採用の拒否をめぐる交渉、労働審判及び訴訟への対応を取り扱っています。費用は、事案の内容と関与の範囲に応じて事前にご説明します。
よくあるご質問
試用期間中であれば、理由を問わず本採用を拒否できるのではありませんか。
できません。本採用の拒否は解雇であり、通常の解雇より広い範囲で認められるものの、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。試用期間中の具体的な事実と、指導及び改善の機会を与えた経過を記録しておいてください。
入社から10日目に本採用を拒否したいと考えています。予告は必要ですか。
雇入れの日から14日以内であれば、解雇の予告及び解雇予告手当は不要です。ただし、14日以内であっても解雇権濫用法理の適用は受けますので、拒否の理由となる具体的な事実が必要です。
試用期間を3か月と定めましたが、判断がつきません。延長できますか。
就業規則に延長の事由と期間の上限が定められている場合、又は本人の真意に基づく同意がある場合に限り、延長できます。延長の理由と延長後の満了日を書面で通知し、延長期間中に改善を求める事項を明示してください。
最初の6か月を契約社員として雇い、問題がなければ正社員にする運用は問題ありませんか。
その6か月が適性を評価するための期間であれば、期間満了により当然に終了する旨の明確な合意がない限り、試用期間と解されます。正社員としない判断は本採用の拒否すなわち解雇として扱われますので、有期労働契約を用いることにより試用期間の規制を回避することはできません。
試用期間中は社会保険に加入させなくてよいですか。
加入は雇入れの日から必要です。試用期間中であることを理由に加入を遅らせることはできません。最低賃金についても、都道府県労働局長の許可を得た減額の特例による場合を除き、下回ることはできません。
まとめ
試用期間中の従業員との労働契約は既に成立しており、本採用の拒否は、留保された解約権の行使としての解雇です。通常の解雇よりも広い範囲で認められますが、採用時に知ることができなかった事実に基づき、指導と改善の機会を与えたうえで、なお適格性を欠くと判断される客観的な理由が必要です。雇入れから14日を超えている場合には解雇の予告が必要であり、試用期間の満了日を過ぎると通常の解雇として扱われます。試用期間の延長は就業規則の根拠又は本人の同意を要し、有期労働契約を用いても試用期間の規制を回避することはできません。就業規則の整備と指導記録の作成が最も有効な予防策であり、本採用の可否に疑問が生じた時点で、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士にご相談ください。
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