人員削減を適法に進める手順|整理解雇の4要素、希望退職の募集及び退職勧奨の限界(使用者側)

「業績が悪化し、人員を減らさざるを得ない」「不採算部門を閉鎖することになり、所属する従業員の処遇を決めなければならない」という局面で、経営者の方が最初に直面するのは、解雇という手段がどこまで許されるのかという問題です。結論から申し上げますと、経営上の理由による解雇(整理解雇)は、労働者に落ち度がないにもかかわらず雇用を失わせるものであるため、その有効性は厳格に判断されます。他方、希望退職の募集や適法な退職勧奨により、労働者の自由な意思に基づく合意退職として人員の削減を進めることは認められており、実務上はこれらを整理解雇に先立って行うことが、整理解雇の有効性を支える要件(解雇回避努力)ともなります。

本記事では、使用者側の立場から、解雇と合意退職の法的な違い、整理解雇が有効となるための4つの要素、人員削減の計画から実行までの手順、希望退職の募集の設計、退職勧奨を適法に行うための限界、及び退職合意書の作成について、順を追って解説します。退職勧奨の限界そのものについては、関連記事「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」でさらに詳しく扱っています。

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解雇と合意退職の法的な違い

解雇は、使用者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させるものであり、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります。無効となった場合、労働契約は継続していたものとして扱われ、使用者は、解雇の日以降の賃金を遡って支払う義務を負います(民法第536条第2項)。

これに対し、合意退職は、労働者の申出(退職届)と使用者の承諾、又は双方の合意によって労働契約を終了させるものであり、労働者の自由な意思に基づくものである限り、解雇の要件は問題となりません。退職勧奨は、使用者が労働者に対して合意退職を促す働きかけであり、それ自体は適法です。ただし、労働者の自由な意思決定を妨げる態様で行われた場合には、退職勧奨は違法な退職の強要となり、損害賠償の対象となるだけでなく、それによって得られた退職の意思表示は錯誤(民法第95条)又は強迫(民法第96条)を理由に取り消され得ます。合意退職が有効であるためには、退職届の有無ではなく、退職に至る過程が労働者の自由な意思を尊重したものであったことが必要です。

整理解雇が有効となるための4つの要素

経営上の理由による解雇の有効性は、次の4つの要素を総合的に考慮して判断されます。いずれか一つが欠けると直ちに無効となるわけではありませんが、実務上は4つのすべてについて会社が説明と資料の提示をできることが求められます。

人員削減の必要性

人員を削減しなければ企業の維持が困難となる程度の経営上の必要性が求められます。倒産の危機に瀕していることまでは要件とされていませんが、単に利益を増やしたいという程度では足りず、売上及び利益の推移、資金繰りの状況、借入れの状況、部門ごとの収支等の客観的な資料により、人員削減の必要性を裏付ける必要があります。人員削減を実施した直後に新規採用を行っていたり、役員報酬や株主への配当を維持していたりする場合には、必要性が疑われます。

解雇回避の努力

解雇は最終手段であり、それに先立って、解雇以外の方法による人件費の削減や雇用の維持のための努力を尽くしたことが求められます。具体的には、残業の削減、新規採用の停止、役員報酬の削減、経費の削減、配置転換及び出向による雇用の維持、労働時間の短縮、一時帰休、有期契約労働者の契約更新の見直し、希望退職の募集等です。どの措置をどの順序で実施するかは企業の状況によりますが、希望退職の募集を経ずに直ちに整理解雇を行うことは、解雇回避努力を欠くものと判断される典型例です。なお、有期契約労働者の雇止めについても、労働契約法第19条の制限が及びますので、正社員の雇用を守るためであれば無制限に行えるものではありません。

被解雇者の選定の合理性

解雇の対象者を選定する基準が客観的かつ合理的なものであり、その基準が公正に適用されたことが求められます。勤務成績、勤続年数、年齢、扶養家族の有無、再就職の容易さ等を組み合わせた基準が用いられますが、基準が事前に定められておらず、結果として特定の従業員を狙い撃ちにしたと評価される場合には、選定の合理性が否定されます。人員削減の目的とは無関係の理由(労働組合への加入、上司との個人的な関係等)で対象者を選ぶことは許されません。

手続の相当性

労働組合がある場合にはその労働組合と、ない場合には対象となる労働者本人と、人員削減の必要性、時期、規模、方法及び選定の基準について、誠実に説明し協議したことが求められます。労働組合の同意を得ることまでは要件ではありませんが、形式的な説明にとどまり、労働者側の質問や提案に応じなかった場合には、手続の相当性を欠くと判断されます。説明の内容と経過は、議事録や配布資料の形で記録しておきます。

人員削減を進める手順

実務上、人員削減は、次の順序で進めることが、法的な安全と労使関係の維持の双方に資します。

第1段階 経営状況の分析と計画の策定

まず、決算書、月次の試算表、資金繰り表及び部門別の収支に基づいて、人件費の削減が必要な規模と時期を明らかにし、解雇以外の手段でどこまで対応できるかを検討します。この段階で、削減の目標人数、実施の時期、対象とする部門及び職種、並びに希望退職と退職勧奨の条件の概要を計画としてまとめます。計画の策定に用いた資料は、後に人員削減の必要性を裏付ける証拠となりますので、保存しておきます。

第2段階 解雇以外の措置の実施

計画に基づき、残業の削減、新規採用の停止、役員報酬の削減、経費の削減、配置転換、出向、労働時間の短縮等の措置を実施します。これらの措置は、それ自体が人件費の削減に寄与するとともに、後に整理解雇に至った場合の解雇回避努力の証拠となります。実施した措置の内容と時期は記録しておきます。

第3段階 希望退職の募集

解雇以外の措置によっても目標が達成できない場合には、希望退職を募集します。希望退職の設計については次章で述べます。

第4段階 退職勧奨

希望退職の募集によっても目標に達しない場合には、選定基準に基づいて対象者を選定し、個別に退職勧奨を行います。退職勧奨の進め方については後述します。

第5段階 整理解雇

以上の措置を尽くしてもなお人員削減の必要性が残る場合に、初めて整理解雇を検討します。整理解雇を行う場合には、労働基準法第20条に基づく30日前の予告又は解雇予告手当の支払、労働基準法第22条に基づく解雇理由証明書の交付の準備、及び再就職支援の措置を併せて行います。

希望退職の募集の設計

希望退職の募集は、一定の条件(退職金の上乗せ、再就職支援等)を提示して、労働者からの退職の申出を募る制度です。労働者の自由な意思に基づく退職であるため、解雇に伴う法的な問題を生じさせず、整理解雇の前段階として広く用いられています。

募集の条件

募集に際しては、募集期間、対象者の範囲(部門、職種、年齢、勤続年数等)、募集人数、退職日、退職金の上乗せの内容(月額賃金の何か月分等)、有給休暇の取扱い、再就職支援の内容、及び会社が承諾しない場合があること(承諾の留保)を明示します。募集の条件は、対象となる労働者に対して書面で説明し、質問に応じる機会を設けます。

承諾の留保

会社にとって必要な人材からの応募を防ぐため、希望退職への応募に対して会社が承諾するか否かを留保する旨を募集条件に定めることは可能です。ただし、承諾の基準は事前に明確にし、恣意的な運用をしないことが必要です。承諾の留保を定めずに募集した場合には、応募により退職の合意が成立したものと扱われます。

特定の労働者への応募の働きかけ

希望退職の募集に際し、特定の労働者に対して個別に応募を促すことは、それ自体が退職勧奨に当たります。募集期間中に個別の働きかけを行う場合には、後述する退職勧奨の限界を守る必要があります。

退職勧奨を適法に行うための限界

退職勧奨は、労働者の自由な意思決定を尊重して行う限り適法ですが、次の点を守る必要があります。

行ってはならないこと

第一に、解雇の要件を満たしていないにもかかわらず、退職に応じなければ解雇すると告げて退職を迫ることです。第二に、労働者が退職に応じない意思を明確に示した後も、繰り返し面談を求め、又は長時間にわたり多数の会社側の者が同席して退職を求めることです。第三に、退職に応じさせることを目的として、業務上の必要性のない配置転換、降格、人事評価の引下げ、仕事を与えないこと、孤立させること等の不利益な処遇を行うことです。これらは、労働者の自由な意思を害する退職の強要として違法となるだけでなく、配置転換や降格については人事権の濫用として無効となり、損害賠償の対象ともなります。退職を促す目的での配置転換や降格は、労働者に対する嫌がらせと評価され、会社の主張の信用性を全体として損ないます。

適法な進め方

退職勧奨は、面談の目的を事前に伝えたうえで、会社側の出席者を2名程度とし、1回の面談を30分から1時間程度とし、人員削減の必要性と対象者として選定した理由を具体的に説明し、退職した場合の条件(退職日、退職金の上乗せ、有給休暇の処理、離職理由の取扱い、再就職支援等)を書面で提示し、検討のための期間を与える形で行います。労働者が退職しない意思を明確に示した場合には、それ以上の勧奨は行わず、次の段階(整理解雇の検討)に進むか否かを判断します。面談の内容は記録に残します。労働者側から弁護士や労働組合の同席の希望があった場合には、これに応じることが望ましいです。

退職の条件

退職勧奨に応じた労働者に対して退職金の上乗せや再就職支援等の条件を提示することは、労働者の生活の安定に資するものであり、適法な退職勧奨の一環として広く行われています。条件の内容は、希望退職の募集の条件と均衡のとれたものとし、応募の時期や対象者によって不合理な差を設けないことが、後の紛争を防ぎます。

退職合意書の作成と離職理由

労働者が退職に応じた場合には、退職届の提出を受けるだけでなく、退職日、支払う金員の名目、金額及び支払期日、有給休暇の取扱い、離職理由の取扱い、貸与物の返還、秘密保持、競業に関する取決め(必要な場合)、及び双方に他に債権債務がないことの確認(清算条項)を記載した退職合意書を作成し、労働者の署名を受けます。合意書には、労働者が内容を十分に理解したうえで自由な意思により合意した旨を記載します。

希望退職や退職勧奨に応じた退職は、雇用保険の離職理由の区分においては、事業主からの働きかけによる離職として、特定受給資格者又は特定理由離職者に該当する取扱いとなることが通常であり、労働者は給付制限を受けずに失業給付を受けることができます。会社が事実と異なる離職理由を記載することは、労働者の異議により訂正されるだけでなく、会社の信用を損ないますので、事実に即して記載してください。なお、会社都合の離職者を出した場合には、一定の雇用関係の助成金の受給に影響が生じることがありますので、人員削減の計画の段階で確認しておきます。

紛争となった場合の見通し

整理解雇や退職勧奨を巡って紛争となった場合、労働者側は、労働審判の申立て、訴訟の提起、又は労働組合を通じた団体交渉の申入れを行うことがあります。整理解雇の有効性が争われる事案では、4つの要素のそれぞれについて会社が資料に基づいて説明できるかどうかが結論を左右し、説明できない場合には、解雇が無効とされて復職と賃金の遡及払を命じられるか、相当額の解決金の支払による和解となります。退職勧奨の違法性が争われる事案では、面談の回数、時間、出席者、発言の内容及び労働者の反応が問題となりますので、面談の記録が会社にとって重要な証拠となります。労働審判への対応については、関連記事「労働審判・労働訴訟への対応|申立てを受けた会社が最初にすべきこと」を御覧ください。

弁護士に相談する時期と、費用の考え方

人員削減は、計画の策定の段階から弁護士が関与することで、解雇回避努力の内容と順序、選定基準の設計、希望退職の募集条件、退職勧奨の進め方、及び労働組合や労働者への説明の方法を、整理解雇に至った場合の有効性を見据えて組み立てることができます。既に退職勧奨を始めた後や、労働者から異議が出た後の相談では、取り得る手段が限られます。当事務所では、使用者側の立場から、人員削減の計画の策定に関する助言、希望退職の募集要項及び退職合意書の作成、退職勧奨の面談への同席又は事前の助言、労働組合との協議への対応、並びに労働審判及び訴訟への対応を取り扱っています。費用は、対象となる人数、期間及び関与の範囲に応じて事前に御説明します。

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よくあるご質問

業績が悪化していれば、直ちに整理解雇を行うことができますか。

できません。人員削減の必要性に加えて、解雇回避の努力、選定の合理性及び手続の相当性が求められます。特に、希望退職の募集等の解雇回避の措置を経ずに行った整理解雇は、無効と判断されるおそれが高いです。

辞めてほしい従業員に、遠方の事業所への異動や降格を打診して退職を促すことはできますか。

退職を促す目的での配置転換や降格は、人事権の濫用として無効となり、退職の強要としての違法性を基礎付け、損害賠償の対象となります。配置転換や降格は、業務上の必要性に基づいて行うものであり、退職勧奨の手段として用いてはなりません。

退職勧奨は何回まで行うことができますか。

回数に法律上の上限はありませんが、労働者が退職しない意思を明確に示した後に繰り返し行うことは、退職の強要と評価されます。実務上は、条件の説明のための面談と、検討期間を置いたうえでの回答を確認する面談の2回程度を目安とし、応じない意思が示された場合にはそれ以上行わないことをお勧めします。

希望退職に、会社に残ってほしい優秀な従業員が応募してきた場合はどうすればよいですか。

募集条件に会社が承諾を留保する旨を定めていれば、事前に定めた基準に従って承諾しないことができます。承諾の留保を定めていない場合には、応募により退職の合意が成立したものと扱われますので、募集の設計の段階で留保の有無と基準を決めておくことが重要です。

退職届を提出させれば、後から争われることはありませんか。

退職届があっても、その提出に至る過程が労働者の自由な意思を害するものであった場合には、退職の意思表示が錯誤又は強迫を理由に取り消され、退職の合意が無効とされることがあります。退職届の有無ではなく、退職勧奨の態様が適正であったことが重要です。

有期契約の従業員の契約を更新しないことで人員を減らすことはできますか。

更新が反復されていたり更新への合理的な期待がある場合には、雇止めにも客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます(労働契約法第19条)。経営上の必要性は理由の一つとなり得ますが、正社員の解雇回避のためであれば無制限に雇止めができるわけではなく、有期契約労働者に対しても説明と協議が必要です。

まとめ

経営上の理由による人員削減は、労働契約法第16条の下で厳格に判断される整理解雇を最終手段とし、それに先立って、経営状況の分析に基づく計画の策定、解雇以外の措置の実施、希望退職の募集、及び労働者の自由な意思を尊重した退職勧奨という順序で進めます。退職を促す目的での配置転換や降格、解雇の示唆による退職の強要は、退職の合意を無効にし、損害賠償責任を生じさせ、整理解雇に至った場合の会社の主張の信用性をも損ないます。人員削減を検討される場合には、計画の策定の段階で、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士に御相談ください。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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