外国人従業員との労務トラブルの予防|労働条件の明示、指示の伝え方、宗教・文化への配慮と問題行動への対応(使用者側)

外国人従業員との間で生じる労務上のトラブルの多くは、外国人であることそのものに原因があるのではなく、労働条件の理解の相違、業務上の指示の伝わり方、職場のルールの周知の不足、及び宗教や生活習慣への配慮の欠如といった、会社側の受入れ体制の問題に由来しています。結論から申し上げますと、外国人従業員との紛争を予防するために会社が行うべきことは、労働条件を本人が理解できる形で明示すること、業務上の指示と職場のルールを具体的かつ明確に伝えること、宗教や文化に関する合理的な配慮を行うこと、問題行動が生じた場合には日本人従業員と同一の基準と手順で指導と記録を行うこと、及び相談窓口を設けることです。出身国や国籍によって従業員の性格や傾向を決めつけ、それに基づいて処遇を変えることは、労働基準法第3条が禁止する国籍を理由とする差別的取扱いに当たるおそれがあり、紛争の予防にも役立ちません。

本記事では、使用者側の立場から、外国人従業員との労務トラブルの典型的な原因と予防策、問題行動が生じた場合の対応、及び社内体制の整備について解説します。解雇や退職に関する固有の留意点については、関連記事「外国人従業員の解雇・退職|日本人と同一の法規制と、在留資格に関する固有の留意点」を御覧ください。

⇒問題社員への対応の全体像(辞めさせる前に踏むべき手順)はこちら

労働条件の理解の相違を防ぐ

理解できる言語による労働条件の明示

賃金の計算方法、控除の内容、労働時間、休日、時間外労働の取扱い、有給休暇、社会保険料の控除、寮費や光熱費の負担、契約期間と更新の有無等について、外国人従業員が採用時に説明を受けた内容と実際の取扱いとが異なると認識することが、紛争の最も多い原因です。労働基準法第15条の労働条件の明示は、厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」に従い、本人が理解できる言語又は平易な日本語で行い、雇用契約書と労働条件通知書には訳文を添付します。控除の内訳を給与明細で明示し、質問に応じる機会を設けます。

労働条件に関する質問への対応

外国人従業員が労働条件について詳しく質問することは、母国と日本の制度の相違を確認するための当然の行動であり、問題行動ではありません。質問に対して根拠を示して丁寧に説明することが、信頼関係の形成と紛争の予防につながります。説明の内容は記録に残します。

業務上の指示と職場のルールの伝え方

具体的かつ明確な指示

日本の職場で用いられる婉曲な表現、暗黙の了解、察することを前提とした指示は、日本語を母語としない従業員には伝わらないことがあります。業務上の指示は、何を、いつまでに、どのような方法で、どの水準で行うかを具体的に示し、重要な指示は書面や電子メールでも伝えます。指示が理解されたかを確認する習慣を持つことが、業務上のミスや「上司の指示に従わない」という誤解を防ぎます。

職場のルールの周知

始業時刻の意味(着替えを済ませて持ち場に着く時刻か、出社の時刻か)、遅刻や欠勤の連絡の方法、休憩の取り方、服装、安全衛生上の決まり、私物の持込み、喫煙の場所等の職場のルールは、就業規則や職場の慣行として日本人従業員には自明であっても、外国人従業員には明示しなければ伝わりません。入社時に、これらのルールを本人が理解できる言語で記載した手引を交付し、説明します。

安全衛生の教育

労働安全衛生法第59条に基づく雇入れ時の安全衛生教育は、外国人従業員にも当然に及びます。危険を伴う作業や機械の取扱いについては、図解や本人が理解できる言語の資料を用い、理解を確認したうえで作業に就かせます。

宗教及び文化に関する配慮

礼拝の時間、断食の期間、食事に関する戒律、服装、宗教上の祝日等について、業務に支障のない範囲で合理的な配慮を行うことは、紛争の予防と定着に資します。例えば、休憩時間の中で礼拝を行うことを認めること、断食の期間中の作業の割当てを調整すること、社員食堂や懇親会の食事で宗教上食べられないものへの配慮を行うこと等です。他方、業務上の合理的な理由なく、宗教を理由として採用、配置、昇進等において不利益な取扱いをすることは、憲法及び労働法上の平等の原則に反し、紛争の原因となります。配慮の内容は、本人と話し合って決め、他の従業員にも趣旨を説明します。

出身国による区別をしないこと

特定の国の出身者を同じ職場に配置しない、特定の国の出身者にのみ厳しい管理を行うといった、出身国や国籍に基づく処遇の区別は、労働基準法第3条の均等待遇の原則に反するおそれがあり、従業員の不信を招いて紛争の原因となります。配置や処遇は、個々の従業員の職務、能力、勤務の実態に基づいて行います。同じ出身国の従業員同士が母国語で会話することを禁止することも、業務上の必要性(安全上の理由で日本語による意思疎通が必要な場面等)がある場合を除き、避けるべきです。

問題行動が生じた場合の対応

日本人従業員と同一の基準と手順

遅刻や欠勤の反復、業務命令違反、勤務成績の不良、協調性の欠如等の問題行動が生じた場合の対応は、日本人従業員と同一です。すなわち、事実を確認し、口頭で注意し、改善が見られなければ書面で指導し、改善の期限を定め、それでも改善しない場合には就業規則に基づく懲戒処分を検討します。指導と処分の内容は記録に残し、書面は本人が理解できる言語の訳文を添えて交付します。外国人であることを理由に指導を省略して直ちに重い処分を行うことも、逆に問題行動を放置することも、いずれも適切ではありません。

問題行動の背景の確認

問題行動の背景に、指示の理解の不足、労働条件の誤解、生活上の困難(住居、医療、家族の事情等)、職場での孤立やハラスメントがある場合には、その背景に対処することが先決です。事情聴取の際には、必要に応じて通訳を同席させ、本人の言い分を十分に聴きます。

私生活上の問題

従業員の私生活上の行為は、原則として会社の懲戒の対象ではありません。私生活上の行為が会社の社会的評価を毀損し、又は企業秩序に直接の影響を及ぼす場合に限り、懲戒の対象となり得ます。この判断は、日本人従業員と同一の基準で行います。なお、在留カードの常時携帯義務(入管法第23条第2項)は本人が負う義務であり、会社は入社時にその旨を説明することが望まれますが、会社が在留カードを預かることはできません。

顧客対応上の問題

顧客に対する対応に問題がある場合には、具体的にどの場面のどの言動が問題であったかを示し、期待される対応の水準と方法を具体的に指導します。言語上の困難が原因である場合には、研修や配置の工夫により対処します。指導と改善の状況を記録し、改善が見られない場合に初めて配置転換や処分を検討します。

相談窓口と社内体制

外国人従業員が労働条件や職場環境に関する疑問や不満を早期に申し出ることができる窓口を設けることは、紛争を社内で解決するために有効です。窓口は、本人が理解できる言語で対応できる者又は通訳を介して対応できる体制とし、申出を理由とする不利益な取扱いをしないことを明示します。また、配属先の管理職に対して、指示の伝え方、宗教や文化への配慮、国籍を理由とする差別的な言動の禁止、及び問題行動への対応の手順について研修を行います。ハラスメントの防止措置(労働施策総合推進法第30条の2)は、外国人従業員に対するものを含めて講ずる必要があります。

弁護士に相談する時期と、費用の考え方

外国人従業員との間で労働条件に関する認識の相違が表面化した場合、問題行動への対応として書面による指導に移行する段階、又は外国人従業員の支援を行う団体や労働組合から申入れがあった場合には、早期に御相談いただくことをお勧めします。当事務所では、使用者側の立場から、多言語の雇用契約書、労働条件通知書及び職場の手引の整備に関する助言、問題行動への対応方針の策定、指導記録及び懲戒処分に関する助言、並びに労働審判、訴訟及び団体交渉への対応を取り扱っています。費用は、御相談の内容と関与の範囲に応じて事前に御説明します。

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よくあるご質問

外国人従業員が労働条件について細かく質問してきます。問題社員でしょうか。

いいえ。母国と日本の制度の相違を確認するための当然の行動です。根拠を示して丁寧に説明し、記録に残すことが、信頼関係の形成と紛争の予防につながります。

同じ国の出身者を同じ職場に配置しない方がよいですか。

出身国に基づく配置の区別は、労働基準法第3条の均等待遇の原則に反するおそれがあり、お勧めしません。配置は個々の従業員の職務、能力及び勤務の実態に基づいて行ってください。

勤務時間中の礼拝を認めなければなりませんか。

法律上の明文の義務はありませんが、休憩時間の中で行うことを認める等、業務に支障のない範囲で合理的な配慮を行うことが、紛争の予防と定着に資します。宗教を理由とする不利益な取扱いは避けなければなりません。

外国人従業員が上司の指示に従いません。すぐに処分できますか。

まず、指示が具体的かつ明確に伝わっていたかを確認してください。伝わっていなかった場合には、伝え方を改めます。伝わっていたにもかかわらず従わない場合には、日本人従業員と同一の手順で、注意、書面による指導、懲戒処分の順に対応し、記録を残します。

外国人従業員に対する日本語の教育は会社の義務ですか。

法律上の一般的な義務はありませんが、業務に必要な日本語の習得を支援することは、業務上のミスや誤解の防止に資します。技能実習及び特定技能の制度では、日本語学習の機会の提供が支援の内容に含まれています。

まとめ

外国人従業員との労務トラブルの予防は、労働条件を理解できる言語で明示すること、指示と職場のルールを具体的に伝えること、宗教や文化に合理的な配慮を行うこと、出身国や国籍による区別をしないこと、問題行動には日本人従業員と同一の基準と手順で指導と記録を行うこと、及び相談窓口と管理職の研修を整備することにより実現します。これらは特別な管理ではなく、労務管理の基本を言語と制度の相違を踏まえて丁寧に行うことにほかなりません。対応に迷われた場合には、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士に御相談ください。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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