問題社員への対応|解雇の要件と、適法な退職勧奨の進め方(使用者側)

「問題のある従業員がいる。もう限界なので解雇したい」という御相談は、使用者側の労働問題の中で最も多いものの一つです。結論から申し上げますと、解雇は、法律上の要件を満たさなければ無効となり、無効となった場合には、その従業員を復職させたうえで、解雇後の期間の賃金を遡って支払うことになります。したがって、問題のある従業員への対応は、いきなり解雇に踏み切るのではなく、事実の確認、注意及び指導、記録の作成、就業規則に基づく懲戒処分、そして必要に応じた適法な退職勧奨という段階を踏んで進めることが、結果として会社の負担を最も小さくします。

本記事では、使用者側の立場から、解雇が有効となるための要件、解雇の3つの類型、問題行動の類型ごとの対応、段階を踏んだ指導と記録の残し方、退職勧奨を適法に行うための限界、有期契約労働者に固有の注意点、及び紛争となった場合の見通しを、順を追って解説します。なお、退職勧奨の限界については、関連記事「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」でさらに詳しく扱っていますので、あわせて御覧ください。

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問題社員への対応について、会社として依頼できる業務、進め方及び費用の考え方は、問題社員への対応にお困りの経営者の皆様へ|解雇・退職勧奨・懲戒処分の選択と進め方(使用者側)に整理しています。

Contents
  1. 解雇が有効となるための要件
  2. 解雇の3つの類型と、それぞれの判断枠組み
  3. 問題行動の類型ごとの対応の要点
  4. 段階を踏んだ指導と、記録の残し方
  5. 退職勧奨を適法に行うための限界
  6. 有期労働契約の労働者に固有の注意点
  7. 紛争となった場合の手続と会社の負担
  8. 弁護士に相談する時期と、費用の考え方
  9. よくあるご質問
  10. まとめ

解雇が有効となるための要件

日本の労働法制の下では、使用者が労働者を解雇するには、実体面と手続面の双方で要件を満たす必要があります。いずれか一つでも欠けると、解雇は無効と判断されるおそれがあります。

客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性(労働契約法第16条)

労働契約法第16条は、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とすると定めています。「客観的に合理的な理由」とは、就業規則に定める解雇事由に該当する具体的な事実が存在することを意味し、「社会通念上の相当性」とは、その事実に照らして解雇という最も重い処分を選択することが行き過ぎでないことを意味します。勤怠不良や能力不足を理由とする解雇では、会社が繰り返し注意及び指導を行ったにもかかわらず改善が見られなかったこと、配置転換その他の解雇を回避する手段を検討したことが、相当性の判断において重視されます。

解雇の有効性が争われた場合、解雇事由に該当する事実が存在すること及び解雇が相当であることは、事実上、使用者の側が資料をもって示す必要があります。指導の記録、始末書、評価の記録、業務命令の書面等が残っていない場合、会社の主張が認められることは困難です。

就業規則上の根拠(労働基準法第89条)

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、解雇の事由を含む退職に関する事項を定めて労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法第89条第3号)。解雇は、就業規則に定めた解雇事由に基づいて行うことが原則であり、就業規則に定めのない事由による解雇や、そもそも就業規則が労働者に周知されていない場合には、解雇の有効性が大きく揺らぎます。問題のある従業員への対応に着手する前に、就業規則の解雇事由及び懲戒事由の規定、並びに周知の状況を必ず確認してください。

解雇予告又は解雇予告手当(労働基準法第20条)

使用者は、労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。予告の日数は、平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができます(同条第2項)。天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には予告は不要ですが、その場合には労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受ける必要があります(同条第1項ただし書、同条第3項)。除外認定を受けずに即時解雇を行うと、予告義務違反の問題が生じますので、懲戒解雇の場合であっても、解雇予告手当を支払うか、除外認定の申請を行うかを事前に決めておく必要があります。

解雇が禁止される期間(労働基準法第19条)

労働者が業務上の負傷又は疾病により療養のために休業する期間及びその後30日間、並びに産前産後の女性が休業する期間及びその後30日間は、解雇することができません(労働基準法第19条第1項)。問題のある従業員が業務上の負傷等により休業している場合には、この期間中の解雇は無効となりますので、休業の原因が業務上のものか否かを確認する必要があります。

解雇理由証明書(労働基準法第22条)

解雇の予告をされた労働者は、退職の日までの間に、解雇の理由について証明書を請求することができ、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません(労働基準法第22条第2項)。この証明書に記載した理由は、その後の紛争において会社の主張の出発点となります。記載する理由は、就業規則の条項と具体的な事実を対応させ、後から追加や変更を要しない形で整理しておくことが重要です。

解雇の3つの類型と、それぞれの判断枠組み

解雇には、普通解雇、整理解雇及び懲戒解雇の3つの類型があり、それぞれ有効性の判断の枠組みが異なります。問題のある従業員への対応として想定されるのは主として普通解雇と懲戒解雇ですが、いずれを選択するかによって、必要となる手続と証拠が異なります。

普通解雇

普通解雇は、労働者の勤務成績の不良、能力不足、勤怠不良、協調性の欠如、傷病による就労不能等を理由として、労働契約を将来に向けて終了させるものです。有効性は、前記の労働契約法第16条の枠組みで判断されます。実務上は、問題行動の存在を示す客観的な記録、会社が改善の機会を与えたことを示す指導の記録、及び配置転換等の解雇回避の努力を尽くしたことを示す資料の3点が揃っているかどうかが、結論を左右します。

整理解雇

整理解雇は、経営上の必要性に基づいて人員を削減するための解雇であり、労働者に落ち度がない点で他の類型と異なります。有効性は、人員削減の必要性、解雇を回避するための努力、被解雇者の選定の合理性、及び労働者や労働組合に対する説明・協議の手続の相当性という4つの要素を総合して判断されます。労働組合との協議は、同意を得ることまでが要件とされているわけではありませんが、十分な説明と誠実な協議を行ったことが求められます。特定の従業員を排除する目的で整理解雇の形式を用いることは、人選の合理性を欠くものとして無効と判断される典型例です。

懲戒解雇

懲戒解雇は、企業秩序に違反する行為に対する制裁として行う解雇であり、労働者に対する不利益が最も大きい処分です。懲戒処分は、就業規則に懲戒の種類及び事由が定められ、それが労働者に周知されていることを前提として、当該行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となります(労働契約法第15条)。加えて、本人に弁明の機会を与えること、同種の事案に対する過去の処分との均衡を保つこと、一つの行為について二重に処分しないことといった手続上及び実体上の原則を守る必要があります。横領、重大な経歴詐称、業務上の重大な背信行為等が典型ですが、これらの場合でも、事実関係を証拠により確定させてから処分を決定することが不可欠です。懲戒解雇の要件と手続については、関連記事「懲戒解雇に踏み切る前に確認すべき要件と手続」を御参照ください。

問題行動の類型ごとの対応の要点

問題のある従業員と一口に言っても、その行動の類型によって、会社が取るべき対応は異なります。以下に、御相談の多い類型ごとに、対応の要点を整理します。

遅刻・欠勤等の勤怠不良

勤怠不良は客観的な記録が残りやすく、対応の手順も比較的明確です。出退勤の記録を正確に保持したうえで、まず口頭で注意し、改善が見られなければ書面で注意及び指導を行い、それでも繰り返される場合には就業規則に基づき戒告、譴責等の軽い懲戒処分から段階的に対応します。遅刻や欠勤の背景に健康上の問題がある可能性がある場合には、産業医の面談や受診の勧奨を行い、必要に応じて休職制度の適用を検討します。健康上の問題を放置したまま懲戒処分や解雇を重ねると、安全配慮義務との関係で会社の責任が問われるおそれがあります。

能力不足・成績不良

能力不足を理由とする解雇は、最も有効性が認められにくい類型の一つです。単に成績が他の従業員より劣るというだけでは足りず、会社が求める水準を具体的に示し、達成のための指導や研修の機会を与え、配置転換によって能力を発揮できる職務がないかを検討したうえで、なお改善の見込みがないと判断される場合に初めて解雇が視野に入ります。目標と結果、指導の内容と本人の反応を、時系列で記録に残すことが不可欠です。なお、特定の専門職として高い能力を前提に中途採用した従業員については、職種を限定した契約であることや採用時に求めた水準が明確であることを示すことができれば、一般の従業員より解雇の有効性が認められやすい場合があります。

協調性の欠如・ハラスメント

他の従業員との衝突やハラスメント行為については、被害者及び関係者からの事情聴取を行い、事実関係を客観的に確定させることが出発点です。行為者に対しては、事実を示して注意し、改善を求め、必要に応じて配置転換や懲戒処分を行います。ハラスメントの事実調査の進め方については、関連記事「ハラスメントの申告を受けた会社が行う事実の調査と認定の手順」を御覧ください。

業務命令違反

正当な業務命令に従わない場合には、命令の内容と根拠を書面で明示したうえで改めて指示し、それでも従わない場合に懲戒処分を検討します。業務命令自体が業務上の必要性を欠くものであったり、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものであったりする場合には、命令自体が無効と判断され、命令違反を理由とする処分も無効となりますので、命令の内容が合理的なものであることを事前に確認してください。

私生活上の非行・逮捕された場合

従業員が私生活上の犯罪行為により逮捕された場合、会社は直ちに懲戒解雇ができるわけではありません。私生活上の行為に対する懲戒は、その行為が会社の社会的評価を毀損し、又は企業秩序に直接の影響を及ぼす場合に限って許されます。また、逮捕又は起訴の段階では有罪が確定しておらず、事実関係も明らかでないことが通常です。この段階での対応としては、本人又は弁護人を通じて事実関係を確認すること、就業規則に起訴休職の定めがあればその適用を検討すること、及び報道等への対応方針を決めることが中心となります。身柄拘束中の従業員に対し、その置かれた状況に乗じて退職届の提出を求めることは、退職の意思表示の任意性が否定され、後に無効を主張されるおそれが高いうえ、会社の信用にも関わりますので、行ってはなりません。

段階を踏んだ指導と、記録の残し方

解雇や退職勧奨を検討する前に、会社が行うべきことは、段階を踏んだ指導とその記録です。これは、従業員に改善の機会を与えるという意味と、万一紛争となった場合に会社の対応が相当であったことを示すという意味の双方で重要です。

指導の段階

一般的な段階は、次のとおりです。第一に、上司による口頭の注意を行い、その日時、内容及び本人の反応を業務日誌等に記録します。第二に、改善が見られない場合には、問題となる事実、改善すべき点及び期限を明記した書面(注意書又は指導書)を交付し、本人に受領の署名を求めます。第三に、期限を区切った改善計画を本人と共有し、面談を定期的に行って進捗を記録します。第四に、それでも改善が見られない場合には、就業規則に基づき、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格といった軽い処分から順に検討します。第五に、これらを経てもなお改善がなく、雇用の継続が困難と判断される場合に、退職勧奨又は解雇を検討します。

始末書と顛末書

問題行動があった場合に、事実の経過を本人に記載させる書面には、事実の報告を目的とする顛末書と、反省及び謝罪の意を含む始末書とがあります。事実の経過を報告させることは業務命令として行うことができますが、反省や謝罪の意思の表明を強制することはできません。始末書の提出を拒んだこと自体を重ねて懲戒の対象とすることは、無効と判断されるおそれがありますので、提出を拒む従業員に対しては、顛末書の提出を求め、又は会社側で事情聴取の記録を作成する方法によります。

記録の要件

記録は、日時、場所、関与した者、具体的な言動、会社の対応及び本人の反応を、評価や感想を交えずに事実として記載することが重要です。感情的な表現や人格に関する評価が記録に含まれていると、かえって会社側の対応の相当性が疑われる材料となります。

退職勧奨を適法に行うための限界

退職勧奨とは、使用者が労働者に対して自発的な退職を促す働きかけであり、それ自体は違法ではありません。しかし、退職するか否かは労働者の自由な意思に委ねられるべきものであり、その自由な意思決定を妨げる態様で行われた退職勧奨は違法となり、会社が損害賠償責任を負うことがあります。また、そのようにして得た退職届は、錯誤(民法第95条)又は強迫(民法第96条)を理由に取り消され、退職の合意自体が無効とされることがあります。

行ってはならない言動

退職勧奨に際して、次のような言動は、退職の強要と評価される典型例ですので、行ってはなりません。第一に、「辞めなければ懲戒解雇にする」といった、解雇の要件を満たしていないにもかかわらず解雇を示唆して退職を迫る発言です。第二に、労働者が退職しない意思を明確に示した後も、繰り返し面談を求め、長時間にわたり又は多数の会社側の者が同席して退職を求めることです。第三に、退職に応じるまで仕事を与えない、孤立させる、人格を否定する発言をするといった、退職に追い込むことを目的とした処遇です。第四に、退職を促す目的で、業務上の必要性のない配置転換や降格を行うことです。これらは、退職勧奨の違法性を基礎付けるだけでなく、それ自体が不法行為や人事権の濫用として別途の責任を生じさせます。

適法な進め方

適法な退職勧奨は、次のような形で行います。面談の目的を事前に伝え、会社側の出席者は2名程度にとどめ、1回の面談は30分から1時間程度とし、退職を求める理由を具体的な事実に基づいて説明します。退職した場合の条件(退職日、退職金の上乗せ、有給休暇の処理、離職理由の取扱い、再就職支援等)を明示し、検討のための時間を与え、労働者が退職しない意思を明確に示した場合には、それ以上の勧奨は行いません。面談の内容は記録に残し、可能であれば本人の了解を得て録音します。退職勧奨が違法と評価される具体的な分岐点については、関連記事「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」に整理しています。

退職合意書の作成

労働者が退職に応じた場合には、退職届の提出を受けるだけでなく、退職日、支払う金員の内容と支払期日、離職理由の取扱い、貸与物の返還、秘密保持、及び双方に他に債権債務がないことの確認(清算条項)を記載した退職合意書を作成します。合意書には、労働者が内容を十分に理解したうえで自由な意思により合意した旨を明記し、署名を受けます。退職金の上乗せ等の金銭的な条件を提示することは、労働者の生活の安定に資するものであり、適法な退職勧奨の一環として通常行われています。

離職理由の取扱い

退職勧奨に応じた退職は、雇用保険の離職理由の区分においては、原則として「事業主からの働きかけによる」離職として扱われ、給付制限の対象とならない区分に該当します。会社が事実と異なる離職理由を記載することは、後に労働者からの異議により訂正されるだけでなく、会社の信用を損ないますので、事実に即して記載してください。

有期労働契約の労働者に固有の注意点

契約社員、パートタイマー、アルバイト等の有期労働契約の労働者については、無期契約の労働者とは異なる規律が適用されます。誤解の多い点を中心に整理します。

契約期間中の解雇(労働契約法第17条)

有期労働契約の期間中は、やむを得ない事由がある場合でなければ、使用者は労働者を解雇することができません(労働契約法第17条第1項)。この「やむを得ない事由」は、無期契約における解雇の要件よりも厳格に判断されます。期間の定めがあるからといって解雇が容易になるわけではなく、むしろ期間途中の解雇はより困難です。

雇止めの制限(労働契約法第19条)

契約期間の満了時に更新を行わないこと(雇止め)は、解雇そのものではありませんが、過去に反復して更新されたことにより雇止めが解雇と社会通念上同視できる場合、又は労働者が契約の更新を期待することについて合理的な理由がある場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない雇止めは許されず、従前と同一の条件で契約が更新されたものとみなされます(労働契約法第19条)。更新の回数、通算の勤続期間、業務の内容が恒常的なものか、更新の手続が形式的なものであったか、更新を期待させる言動があったかといった事情が考慮されます。問題行動を理由とする雇止めであっても、無期契約の労働者と同様に、指導と記録を経ていることが求められます。

無期転換申込権(労働契約法第18条)

同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者は、期間の定めのない労働契約への転換を申し込むことができ、使用者はこれを承諾したものとみなされます(労働契約法第18条第1項)。無期転換の対象となるのは契約期間の定めのみであり、賃金その他の労働条件は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の内容となります。無期転換を避ける目的のみで通算5年に達する直前に雇止めを行うことは、更新への合理的な期待がある場合には労働契約法第19条により無効と判断されるおそれがあります。なお、「有期契約は通算で3年が上限である」という理解は誤りです。労働基準法第14条が定めているのは1回の契約期間の上限(原則3年、専門的知識等を有する労働者及び満60歳以上の労働者については5年)であり、更新を重ねた通算期間の上限を定めたものではありません。

雇止めの予告と理由の明示

有期労働契約が3回以上更新されているか、又は1年を超えて継続して雇用されている労働者について契約を更新しない場合には、使用者は、少なくとも契約期間が満了する日の30日前までにその予告をしなければならず、労働者から請求があった場合には、雇止めの理由を記載した証明書を遅滞なく交付しなければなりません(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)。また、有期労働契約の締結時には、更新の有無及び更新の判断基準を書面で明示することが義務付けられており、この明示の内容が、後の雇止めの有効性の判断に影響します。

紛争となった場合の手続と会社の負担

解雇や退職勧奨を巡って紛争となった場合、労働者側が取り得る手続には、労働基準監督署や都道府県労働局への相談及びあっせんの申請、労働組合(合同労働組合を含みます。)を通じた団体交渉の申入れ、労働審判の申立て、及び民事訴訟の提起があります。

労働審判

労働審判は、裁判官である労働審判官1名と労働関係の専門的な知識経験を有する労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理し、調停による解決を試み、調停が成立しない場合には審判を行う手続です(労働審判法)。第1回期日までに会社側の主張と証拠を整理して提出する必要があり、申立てから第1回期日までの期間は通常40日程度ですので、申立書が届いた段階で速やかに準備に着手する必要があります。解雇の有効性が争われる事案では、金銭の支払による解決(解決金)が図られることが多く、その水準は、解雇の有効性の見通し、労働者の賃金額及び勤続年数等によって大きく異なります。労働審判の流れについては、関連記事「労働審判の申立てを受けてから第1回の期日までに会社が行うこと」を御参照ください。

団体交渉

労働者が合同労働組合(ユニオン)に加入し、その労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、使用者は、正当な理由なくこれを拒むことができません(労働組合法第7条第2号)。団体交渉を拒否し、又は形式的に応じるだけで誠実に交渉しないことは不当労働行為に該当し、労働委員会による救済命令の対象となります。団体交渉には誠実に応じつつ、会社としての主張と根拠を整理して臨むことが必要です。労働組合への対応については、関連記事「ユニオン(合同労働組合)への対応方法」を御覧ください。

解雇が無効とされた場合の負担

解雇が無効と判断された場合、労働契約は継続していたことになりますので、労働者は復職することができ、会社は、解雇の日から復職までの期間の賃金を支払う義務を負います(民法第536条第2項)。争いが長期化するほどこの金額は大きくなり、例えば月額賃金30万円の従業員について解雇から判決確定まで2年を要した場合、720万円程度の賃金の支払を命じられることになります。加えて、労働者が解雇後に他で収入を得ていた場合でも、その控除には一定の限度があります。安易な解雇が会社にもたらす負担は、このように大きなものです。

弁護士に相談する時期と、費用の考え方

問題のある従業員への対応について弁護士に相談する時期は、早ければ早いほど選択肢が広がります。具体的には、口頭の注意を重ねても改善が見られず、書面による指導に移行する段階で相談いただければ、その後の記録の残し方、懲戒処分の選択、退職勧奨の進め方及び合意書の作成までを、一貫した方針の下で進めることができます。逆に、既に解雇を通知した後、労働審判の申立書が届いた後、又は労働組合から団体交渉の申入れがあった後の相談では、取り得る手段が限られ、解決のための費用も大きくなる傾向があります。

当事務所では、使用者側の立場から、問題のある従業員への対応方針の策定、指導記録及び懲戒処分に関する助言、退職勧奨の面談への同席又は事前の助言、退職合意書の作成、並びに労働審判、訴訟及び団体交渉への対応を取り扱っています。顧問契約による継続的な助言と、個別事件の受任のいずれにも対応しており、費用は、事案の内容と関与の範囲に応じて事前に御説明します。

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よくあるご質問

問題のある従業員に対し、解雇と退職勧奨のどちらを先に検討すべきですか。

解雇の要件を満たしているかどうかにかかわらず、まず段階を踏んだ指導と記録を行い、そのうえで退職勧奨を検討し、解雇は最後の手段として位置付けることをお勧めします。退職勧奨により合意退職が成立すれば、解雇の有効性を巡る紛争を避けることができます。ただし、退職勧奨はあくまで労働者の自由な意思に基づく退職を促すものであり、応じない意思が明確に示された場合にはそれ以上行ってはなりません。

退職届さえ提出させれば、後から争われることはありませんか。

そのようなことはありません。退職の意思表示が、解雇の要件を満たしていないにもかかわらず懲戒解雇を示唆して迫られたものである場合や、長時間又は多数回の面談により心理的に追い詰められた状態でなされたものである場合には、錯誤又は強迫を理由に取り消され、退職の合意が無効とされることがあります。加えて、退職勧奨の態様自体が違法として損害賠償の対象となります。退職届の有無ではなく、退職に至る過程が適正であったかどうかが問われます。

アルバイトや契約社員であれば、契約期間の満了時に自由に契約を終了できますか。

更新が反復されていたり、更新への合理的な期待がある場合には、雇止めにも客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます(労働契約法第19条)。また、通算5年を超えて更新された場合には無期転換申込権が発生します(同法第18条)。有期契約であることを理由に指導や記録を省略することはできません。

従業員が逮捕されました。直ちに懲戒解雇できますか。

逮捕の段階では事実関係も有罪か否かも確定していませんので、直ちに懲戒解雇を行うことは避けるべきです。私生活上の行為に対する懲戒が許されるのは、その行為が会社の社会的評価や企業秩序に直接の影響を及ぼす場合に限られます。まず本人又は弁護人を通じて事実関係を確認し、就業規則に起訴休職の定めがあればその適用を検討してください。身柄拘束中の従業員に退職届の提出を求めることは、任意性が否定されるおそれが高く、行うべきではありません。

労働組合から団体交渉の申入れがありました。応じなければなりませんか。

正当な理由なく団体交渉を拒むことは不当労働行為に該当し(労働組合法第7条第2号)、労働委員会による救済命令の対象となります。申入れには誠実に応じる必要があります。もっとも、交渉の日時、場所、出席者及び議題については協議のうえ合理的な範囲で調整することができ、組合の要求をそのまま受け入れる義務はありません。

解雇予告は、退職日のちょうど30日前に行う必要がありますか。

労働基準法第20条は「少なくとも30日前」に予告することを求めており、30日より前に予告することに法律上の問題はありません。解雇の理由と時期は、事実と会社の判断に基づいて決定するものであり、予告の時期を意図的に調整する必要はありません。むしろ、解雇理由証明書の交付に備えて、解雇の理由を事実と就業規則の条項に対応させて整理しておくことの方が重要です。

まとめ

問題のある従業員への対応は、解雇の要件(労働契約法第16条、労働基準法第19条、第20条、第22条、第89条)を正確に理解したうえで、事実の確認、段階を踏んだ指導と記録、就業規則に基づく懲戒処分、そして労働者の自由な意思を尊重した退職勧奨という順序で進めることが、会社にとって最も安全で、結果として負担の小さい道です。解雇の示唆による退職の強要、退職に追い込む目的の配置転換や降格、身柄拘束中の従業員への退職届の要求といった手段は、退職の合意を無効にし、損害賠償責任を生じさせ、会社の信用を損ないます。有期契約の労働者についても、契約期間中の解雇はより厳格に制限され、雇止めにも合理的な理由が求められ、通算5年を超えれば無期転換申込権が発生することに留意が必要です。対応に迷われた場合には、書面による指導に移行する段階までに、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士に御相談ください。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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