配置転換、降格、転籍及び役職定年 人員の再配置において適法とされる範囲(使用者側)

組織の再編や事業の縮小に伴い、従業員の配置転換、降格、転籍又は役職定年による人員の再配置を検討する場面は少なくありません。これらの人事上の措置は、使用者の人事権に基づいて行うことができますが、その範囲には法律上の限界があり、限界を超えた措置は無効となるだけでなく、損害賠償の対象となります。特に、特定の従業員を退職に追い込むことを目的として配置転換や降格を用いることは、人事権の濫用として無効となり、違法な退職の強要として評価されますので、行ってはなりません。

本記事では、使用者側の立場から、配置転換、降格、出向及び転籍、並びに役職定年のそれぞれについて、適法とされる範囲と手続、及び紛争を防ぐための留意点を解説します。人員削減の全体の手順については、関連記事「人員削減を適法に進める手順(整理解雇・希望退職・退職勧奨)」を、退職勧奨の限界については、関連記事「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」を御覧ください。

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配置転換

配置転換を命じることができる根拠

配置転換(勤務場所又は職務内容の変更)を命じるには、就業規則又は労働契約に配置転換を命じ得る旨の定めがあることが前提です。多くの就業規則には「業務上の必要により配置転換を命ずることがある」旨の定めがあり、これにより使用者は包括的な配転命令権を有します。他方、勤務地や職種を限定する合意がある場合(勤務地限定社員、職種限定社員、専門職として採用された場合等)には、その合意の範囲を超える配置転換を一方的に命じることはできず、本人の同意が必要です。令和6年4月からは、労働契約の締結時及び有期契約の更新時に、就業場所及び業務の変更の範囲を書面で明示することが義務付けられていますので(労働基準法施行規則第5条)、明示した範囲を超える配置転換にも本人の同意が必要となります。

配転命令が無効となる場合

配転命令権がある場合でも、次のいずれかに当たるときは、権利の濫用として無効となります。第一に、業務上の必要性が存在しない場合です。業務上の必要性は、当該労働者でなければならないという高度のものである必要はなく、労働力の適正配置、業務の能率の増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化等の企業の合理的運営に寄与する点が認められれば足りるとされていますが、これらの説明ができない配置転換は無効となります。第二に、業務上の必要性があっても、他の不当な動機又は目的をもって行われた場合です。退職に追い込む目的、労働組合への加入を理由とする報復、内部通報に対する報復等がこれに当たります。第三に、労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合です。家族の介護や病気の治療等の事情により転居を伴う異動が著しい不利益となる場合には、育児介護休業法第26条により、使用者は労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務も負います。

実務上の留意点

配置転換を命じる際には、業務上の必要性を具体的に説明できるようにし、本人の事情(家族の状況、健康状態、通勤の負担等)を聴取したうえで、必要に応じて赴任の時期の調整や手当の支給等の配慮を行い、これらの経過を記録します。配置転換の直前に退職勧奨を行っていたり、配置転換の理由が本人の勤務成績とは無関係であったりする場合には、不当な目的が推認されやすくなります。勤務成績の不良を理由に配置転換を行う場合には、先立って指導と記録を行っておくことが必要です。

降格

降格の2つの類型

降格には、役職や職位を引き下げるもの(役職の降格)と、職能資格制度における資格や等級を引き下げるもの(資格の降格)とがあります。役職の降格は、人事権の行使として、就業規則に特段の定めがなくても、業務上の必要性に基づいて行うことができるとされていますが、資格の降格は、労働契約の内容を不利益に変更するものであるため、就業規則等に降格の根拠となる定めがあり、その定めに基づいて行われることが必要です。

降格に伴う賃金の減額

役職の降格に伴い役職手当が支給されなくなることは、役職手当が役職に対して支給されるものである限り認められますが、基本給の減額を伴う場合には、賃金規程においてその根拠が明確に定められていることが必要です。根拠のない賃金の減額は、労働基準法第24条の全額払の原則にも抵触します。

降格が無効となる場合

降格も、業務上の必要性を欠く場合、不当な動機又は目的による場合、又は労働者の不利益が著しい場合には、人事権の濫用として無効となります。勤務成績の不良を理由とする降格は、評価の基準が合理的であり、評価の過程が公正であり、本人に改善の機会が与えられていたことが求められます。退職を促す目的で降格を行い、それにより労働者が退職した場合、その退職の意思表示は取り消され得るとともに、降格自体が不法行為として損害賠償の対象となります。降格を懲戒処分として行う場合には、労働契約法第15条に基づき、就業規則上の根拠、弁明の機会の付与及び処分の相当性が必要です。

出向と転籍

出向(在籍出向)

出向は、労働者が出向元との労働契約を維持したまま、出向先の指揮命令の下で労務を提供するものです。使用者が出向を命じるには、就業規則や労働協約に出向を命じ得る旨の定めがあり、出向先の範囲、出向中の労働条件、出向期間、復帰の条件等が定められていることが必要です。出向命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして権利を濫用したものと認められる場合には無効となります(労働契約法第14条)。出向に伴い賃金その他の労働条件が低下する場合には、出向元が差額を補填する等の措置が必要です。

転籍

転籍は、労働者が転籍元との労働契約を終了させ、転籍先と新たに労働契約を締結するものです。労働契約の相手方が変わるため、就業規則に定めがあっても一方的に命じることはできず、労働者の個別の同意が必要です。同意は、転籍先の労働条件(賃金、退職金の取扱い、勤続年数の通算の有無、勤務地、職務内容等)を書面で説明したうえで、労働者の自由な意思に基づいて得なければなりません。転籍に同意しないことを理由に労働者を不利益に取り扱うことはできません。グループ会社間で人員を再配置する場合、出向によるか転籍によるかは、労働者の同意の要否と労働条件の保障の観点から、事前に慎重に検討する必要があります。

役職定年

制度の内容

役職定年制度は、一定の年齢に達した従業員が役職から外れる制度です。役職に就く者の新陳代謝を図り、後進に機会を与えることを目的として導入されます。役職定年制度そのものは、就業規則に定め、合理的な内容であれば、適法に運用することができます。

導入時の留意点

役職定年制度を新たに導入する場合、既に役職に就いている従業員にとっては、将来の役職手当の喪失等の不利益を伴う労働条件の変更となります。したがって、労働契約法第10条に基づき、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働者の受ける不利益の程度、労働組合等との交渉の状況等に照らして合理的なものであることが求められ、経過措置(一定期間の手当の保障、段階的な減額等)を設けることが望まれます。導入の手続は、労働基準法第90条に基づく過半数代表者からの意見聴取、労働基準監督署長への届出(第89条)及び周知(第106条)によります。

役職定年後の処遇

役職定年後の従業員に対しては、その知識と経験を活用できる職務を与え、処遇を定める必要があります。役職定年を退職の契機として位置付け、役職定年に達した従業員に対して一律に退職を促すことは、年齢を理由とする退職勧奨として問題があり、また高年齢者雇用安定法が65歳までの雇用確保措置を義務付けている趣旨にも反します。役職定年に併せて早期退職優遇制度を設けることは可能ですが、その利用は労働者の自由な選択に委ねなければなりません。

人員の再配置を退職勧奨の手段として用いてはならない理由

配置転換、降格、出向及び転籍は、いずれも業務上の必要性に基づいて行う人事上の措置であり、従業員に退職を促すための手段ではありません。退職に追い込む目的でこれらの措置を用いた場合には、第一に、措置自体が人事権の濫用として無効となり、第二に、それによって労働者が退職した場合でも、退職の意思表示が錯誤又は強迫を理由に取り消され得るとともに、退職の強要として損害賠償の対象となり、第三に、その後に解雇に至った場合には、会社が労働者を排除する意図を有していたことの証拠として、解雇の有効性の判断においても会社に不利に働きます。これらの措置を検討する際には、業務上の必要性を客観的に説明できるか、対象者の選定が合理的か、労働者の不利益に対する配慮を行ったかを、実施の前に確認してください。

弁護士に相談する時期と、費用の考え方

配置転換、降格、出向、転籍又は役職定年の制度の導入や個別の適用について、対象となる従業員から異議が出ることが予想される場合や、勤務成績の不良を理由とする措置を検討している場合には、実施の前に御相談いただくことで、就業規則上の根拠の確認、業務上の必要性の整理、本人への説明の方法、及び記録の残し方について助言することができます。当事務所では、使用者側の立場から、これらの人事措置に関する助言、就業規則及び関連規程の整備、本人への説明文書の作成、並びに紛争となった場合の労働審判及び訴訟への対応を取り扱っています。費用は、事案の内容と関与の範囲に応じて事前に御説明します。

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よくあるご質問

就業規則に配置転換の定めがあれば、どのような異動でも命じることができますか。

できません。勤務地や職種を限定する合意がある場合にはその範囲を超える異動には同意が必要であり、また、業務上の必要性がない場合、不当な動機又は目的がある場合、労働者の不利益が著しい場合には、配転命令は権利の濫用として無効となります。

勤務成績が悪い従業員を降格し、賃金を下げることはできますか。

役職の降格は業務上の必要性に基づいて行うことができますが、基本給の減額を伴う場合には賃金規程上の根拠が必要です。評価の基準が合理的で過程が公正であり、改善の機会を与えていたことが求められます。退職を促す目的での降格は無効であり、損害賠償の対象となります。

子会社への転籍を命じることはできますか。

転籍は労働契約の相手方を変えるものであり、就業規則に定めがあっても一方的に命じることはできません。転籍先の労働条件を書面で説明したうえで、労働者の個別の同意を得る必要があります。同意しないことを理由に不利益な取扱いをすることはできません。

役職定年に達した従業員に退職を促すことはできますか。

役職定年は役職から外れる制度であり、退職の契機ではありません。年齢を理由に一律に退職を促すことは問題があります。早期退職優遇制度を設けて選択に委ねることは可能ですが、利用を強いてはなりません。

配置転換の打診をしたところ、従業員が退職を申し出ました。問題はありますか。

配置転換に業務上の必要性があり、本人の事情を聴取して配慮を行ったうえで、労働者が自らの判断で退職を選んだのであれば問題はありません。他方、配置転換が退職を促す目的で行われたものであった場合には、退職の意思表示が取り消され、損害賠償の対象となるおそれがあります。配置転換の必要性と経過を記録しておくことが重要です。

まとめ

配置転換、降格、出向及び転籍は、就業規則等の根拠、業務上の必要性、不当な目的の不存在、及び労働者の不利益への配慮という限界の中で行う人事上の措置であり、転籍には労働者の個別の同意が不可欠です。役職定年制度は、合理的な内容と適正な手続により導入し、退職の契機として用いてはなりません。これらの措置を退職勧奨の手段として用いることは、措置自体を無効にし、退職の合意を取り消し得るものにし、損害賠償責任を生じさせます。人員の再配置を検討される場合には、実施の前に、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士に御相談ください。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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