懲戒解雇に踏み切る前に確認すべき要件と手続

営業の課長が、担当する仕入先から個人的に金銭を受け取っていたことが分かった。本人は受領の事実を認め、社内には既に噂が広まっている。就業規則には懲戒解雇の定めがあり、経営陣の意向は、来週の月曜日に懲戒解雇を通知するというものである。手続として何を踏めばよいかという御相談を、この段階でお受けします。

懲戒解雇は、会社が一方的に行う意思表示です。行うこと自体は、通知した日に完了します。しかし、その効力は、後日、外部の手続の中で審査されます。審査されるのは、処分の内容だけでなく、そこに至るまでに会社が何をしたかという過程です。通知を急いだ結果として過程が欠けていれば、処分そのものが失われます。

結論から申し上げます。懲戒解雇の効力が維持されるためには、就業規則上の根拠、事由への該当、処分の重さの相当性、そして弁明の機会を含む手続の履践という四つが、いずれも欠けていないことが必要です。労働契約法第15条は、懲戒が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とすると定めています。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

処分に至る作業は段階ごとに分かれますので、次のとおり切り分けます。

懲戒解雇は、普通解雇とは別の要件で判断されます

二つの解雇は、法的な性質が異なります。普通解雇は、労働契約を将来に向かって解約する意思表示です。労働契約法第16条は、解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は無効とすると定めています。問われるのは、労働契約を維持することができない状態にあるかどうかです。

これに対し、懲戒解雇は、企業の秩序に違反した行為に対する制裁として行われるものです。労働契約法第15条が適用され、制裁である以上、あらかじめ定められた規則に基づいて行われなければなりません。問われるのは、規則に定めた事由に該当する行為があり、その行為に対する制裁として解雇が重すぎないかどうかです。

この違いから、同じ事実であっても結論が分かれます。能力の不足や協調性の欠如は、労働契約の維持を困難にする事情になり得ますが、制裁の対象となる秩序違反には当たりません。逆に、一度の重大な非違行為は、制裁の理由にはなり得ても、労働契約の維持を直ちに不可能とするとは限りません。

就業規則に定めのない事由で懲戒することはできません

労働基準法第89条第9号は、表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載しなければならないと定めています。懲戒の種類、すなわち譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の別と、それぞれの対象となる事由が定められていなければ、制裁を科す根拠がありません。

確認すべき点は三つです。第一に、行為が行われた時点で当該規定が存在していたことです。行為の後に規定を新設し、これを適用することはできません。第二に、規定が従業員に周知されていたことです。第三に、適用する条項の号を特定できることです。

実務で問題となるのは、「その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき」という包括的な条項のみを根拠とする場合です。この条項だけに依拠しますと、事由の明確性を欠くという指摘を受けます。まず個別の号への該当を検討し、これを補うものとして包括条項を併記する順序をとってください。処分の通知書には、該当する号と、該当すると判断した具体的な事実を、それぞれ記載します。

非違行為の程度と処分の重さの均衡

労働契約法第15条が求める相当性は、行為の重さと処分の重さの釣合いです。懲戒解雇は最も重い処分ですので、それに見合う行為でなければなりません。検討にあたって整理すべき要素を挙げます。

行為の側の要素は、性質と態様、反復又は継続の有無、会社に生じた損害の額、業務への支障の程度、故意によるものか過失によるものか、動機、そして本人の地位と職責です。管理職として部下を監督する立場にあった場合、同じ行為でも評価は重くなります。本人の側の要素は、過去の懲戒歴と指導の履歴、事実を認めているか、損害を弁償したか、そして勤続年数と従前の勤務の状況です。

会社の側の事情も考慮されます。同種の行為について過去に処分を行わず、又は軽い処分にとどめていた場合、今回だけを重く扱うことの説明が求められます。管理の体制に不備があり、行為を容易にしていた場合も同様です。したがって、処分を決める前に、過去5年程度の懲戒の記録を取り出し、事由と処分の対応を一覧にしてください。

弁明の機会をどのように与えるのか

就業規則に弁明の機会に関する定めがある場合、これを欠いた処分は手続に違反します。定めがない場合でも、重い処分については、機会を与えることが実務上の要請です。

与え方には順序があります。第一に、対象となる事実を書面で具体的に告知します。「不適切な行為があったため」という記載では、本人が何について説明すべきか分かりません。日時、相手方、行為の内容、該当する就業規則の条項を記載します。第二に、告知から弁明の日まで、相当の期間を置きます。3日から1週間が一つの目安です。第三に、弁明の場を設け、本人の説明を記録します。出席しない場合には、期限を定めて書面による提出を促し、その経過を記録に残します。

最も重要なのは、弁明の内容を検討した記録を残すことです。本人が述べた事情のうち、どれを認め、どれを採用しなかったのか、その理由は何か。この検討を経ていない場合、機会を形式的に与えただけと評価されます。

解雇予告の除外認定を求めるかどうかの判断

労働基準法第20条第1項は、使用者は労働者を解雇しようとする場合においては少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告をしない使用者は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定めています。ただし、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合は、この限りでないとされています。同条第3項は、この場合について、行政官庁の認定を受けるべきことを定める規定を準用しています。労働基準法施行規則第7条は、この認定の申請について、所轄の労働基準監督署長に対し所定の様式によって行うべきことを定めています。

ここで誤解が生じやすい点があります。認定は、懲戒解雇を行うための要件ではありません。認定を受けなくても懲戒解雇を通知することはできます。認定がない場合には、予告又は予告手当の支払が必要になるというだけです。

判断は、時間と金額の比較で行います。認定の手続には、申請書の提出のほか、監督署による事実の確認が入りますので、結論までに数週間を要することがあります。その間、本人の在籍は続きます。他方、認定を受けずに30日分の平均賃金を支払えば、直ちに解雇の効力を生じさせることができます。行為が明白で資料が揃っており、かつ在籍を続けることに支障がない事案では認定を求め、早期に離職させる必要が高い事案では予告手当を支払う、という選び方が合理的です。

退職金の不支給又は減額が認められる範囲

懲戒解雇に伴って退職金を支給しないという取扱いには、退職金規程における明確な根拠が必要です。「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」旨の定めが置かれているかどうかを、まず確認してください。定めがなければ、支給しないことはできません。

定めがある場合でも、全額の不支給が当然に認められるわけではありません。退職金は、賃金の後払いとしての性質と功労に対する報償としての性質を併せ持つものと解されていますので、実務上は、それまでの勤続の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったかどうかによって判断されます。行為の重大性が中程度にとどまる場合には、全額ではなく一定の割合を支給する取扱いが選ばれます。

なお、労働基準法第91条は、就業規則で減給の制裁を定める場合において、その減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないと定めています。これは減給という処分の限度を定めた規定であり、退職金の取扱いとは別の問題です。両者を混同して、減給の限度を退職金に及ぼす設計をしないよう注意してください。

懲戒解雇が無効とされた場合に生ずる負担

無効とされた場合、労働契約は解雇の時点から継続していたことになります。会社は、解雇の日から解決の日までの賃金を支払う義務を負います。争いが1年に及べば1年分、2年に及べば2年分です。

負担はそれだけではありません。遅延損害金が加わり、社会保険料の遡及した納付が必要となります。解決の方法として復職ではなく金銭による解決を選ぶ場合には、未払の賃金相当額に加えて解決金を支払うことになりますので、総額はさらに増えます。

社内への影響も生じます。同じ規定に基づいて過去に行った処分の妥当性が問われ、今後の処分についても同じ判断がされることが予測されるようになります。

なぜ普通解雇に切り替える判断が必要となるのか

懲戒解雇は、要件が重い分だけ、否定される可能性も高い処分です。そして、懲戒解雇が無効とされた場合、その意思表示が自動的に普通解雇として効力を持つわけではありません。無効となれば、雇用は継続します。

そこで、二つの方法が用いられます。第一に、懲戒解雇の意思表示とあわせて、予備的に普通解雇の意思表示を行う方法です。通知書に、懲戒解雇が認められない場合には普通解雇として解雇する旨を明記し、労働基準法第20条第1項の予告又は予告手当の支払を併せて行います。第二に、懲戒解雇を選ばず、当初から普通解雇として構成する方法です。非違行為の事実は、労働契約を維持し難い事情として位置付けます。

選択の基準は、会社が達成しようとしている目的です。目的が職場から離れてもらうことにあるのであれば、制裁としての名目に固執する理由はありません。事実が重大で資料も揃っている事案では懲戒解雇を選び、資料に不足がある事案や過去の指導の記録が乏しい事案では普通解雇、あるいは退職の条件を提示して協議する方法を検討してください。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、就業規則の条項と事実の対応関係の確認、処分の重さの検討と過去の処分との均衡の検証、弁明の機会に関する告知書の作成と場の設計、懲戒委員会の運営、処分の通知書の作成、除外認定を求めるかどうかの判断と申請、退職金の取扱いに関する判断、予備的な普通解雇の意思表示の設計、そして本人又は代理人からの通知への対応です。

依頼の時期は、処分の方針を決める前です。事実の確定が終わり、どの処分にするかを検討し始める時点が最も適しています。通知を出した後では、既に行った手続を前提とせざるを得ず、選択の幅がなくなります。

いま確認していただきたいこと

就業規則の懲戒の章を開き、懲戒の種類の定め、事由を列挙した各号、弁明の機会に関する定め、懲戒委員会に関する定めの有無を確認してください。あわせて、その規程が最後に改定された日と、行為が行われた日の前後関係を確認します。周知の方法についても、実際に閲覧が可能であったことを示す資料を用意してください。

次に、過去5年間に行った懲戒処分について、事由、処分の種類、対象者の役職を一覧にしてください。今回の事案と同種の行為が含まれている場合、その処分との均衡が問われます。最後に、退職金規程の不支給及び減額に関する条項と、本人の退職金の支給見込額を確認してください。

よくあるご質問

本人が事実を認めていれば、手続を省略してよいですか

省略できません。認めているかどうかは事実の認定に関わる事情であり、手続の履践とは別の問題です。弁明の機会は、事実の有無だけでなく、処分の重さについて意見を述べる機会でもあります。認めている事案でも、告知と弁明の手順は同じように踏んでください。

懲戒解雇を通知した後で、処分を軽く変更することはできますか

一度行った処分を会社の側から撤回し、より軽い処分に変更する取扱いは、本人の同意がある場合を除き、争いを生みます。実務では、通知の前に、想定される反論を踏まえて処分の重さを確定させます。判断に迷う場合には、出勤停止としたうえで検討を続ける方法もあります。

退職届を先に出された場合、懲戒解雇はできますか

退職の効力が生じた後は、労働契約が終了していますので懲戒処分を行うことはできません。退職の申出を受けた場合には、効力が生じる日を確認し、それまでに手続を終えられるかを判断してください。

同じ行為をした従業員が複数いる場合、処分に差を設けてよいですか

差を設けること自体は可能です。ただし、その理由を説明できる必要があります。関与の程度、主導したか従ったか、地位と職責、利得の有無、過去の処分歴といった要素を整理し、区分の根拠を記録に残してください。理由なく特定の者のみを重く扱うことは、相当性を欠く事情となります。

おわりに

懲戒解雇の可否は、行為の重さだけでは決まりません。規則に根拠があるか、過去の処分と釣り合っているか、弁明の機会を与え、その内容を検討したか。この四つを一つずつ確かめ、記録に残した上で通知すれば、処分は後から覆りません。判断に迷う事案ほど、処分の名称よりも、踏むべき手順の方を優先してください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 労働契約法第15条(懲戒)、第16条(解雇)
  • 労働基準法第20条第1項及び第3項(解雇の予告)、第89条第9号(作成及び届出の義務・表彰及び制裁の定め)、第91条(制裁規定の制限)
  • 労働基準法施行規則第7条(解雇の予告の除外に係る認定の申請)

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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