労働審判の各期日で行われることと会社側の対応|第1回期日の質問、調停案の判断、審判と異議(使用者側)

労働審判は、申立てから原則として3回以内の期日で審理を終え、多くの事件が第1回又は第2回の期日で調停により終了する手続です。会社にとって重要なのは、通常の訴訟のように主張と立証を段階的に積み上げる時間がなく、第1回の期日において事実関係の大半が心証として形成されるという点です。結論から申し上げますと、会社側の対応は、第1回の期日までに主張と証拠を出し尽くすこと、第1回の期日において労働審判委員会の質問に事実に基づいて的確に答えること、及び調停案が示された段階で、審判又は訴訟に移行した場合の見通しと比較して合理的に判断することの三点に集約されます。本記事では、使用者側の立場から、労働審判の各期日において実際に行われることと、それぞれの段階における会社側の対応を解説します。

申立書を受領してから第1回の期日までの準備の詳細は、関連記事「労働審判の申立てを受けてから第1回の期日までに会社が行うこと」を、労働審判及び労働訴訟への対応の全体像は、関連記事「労働審判・労働訴訟への対応|申立てを受けた会社が最初にすべきこと(使用者側)」を御覧ください。

⇒労働審判・労働訴訟への対応(申立てを受けた会社が最初にすべきこと)はこちら

労働審判手続の構造

労働審判委員会

労働審判は、裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識及び経験を有する労働審判員2名(使用者側及び労働者側の経験者から各1名)で構成される労働審判委員会が行います(労働審判法第7条から第9条まで)。労働審判員は中立の立場で関与しますが、実務の経験に基づいて事実関係の細部を質問することが多く、抽象的な説明では通用しません。

対象となる事件

対象は、個々の労働者と事業主との間の労働関係に関する民事紛争(個別労働関係民事紛争)です(同法第1条)。解雇、雇止め、退職勧奨の効力、未払賃金及び割増賃金、退職金、配置転換等が典型です。労働組合と会社との紛争、及び上司や同僚個人のみを相手方とする損害賠償請求は対象外です。会社が従業員を相手方として申し立てることも制度上は可能ですが、実務上は従業員側からの申立てがほとんどです。

期日の回数と期間

特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において審理を終結しなければならないとされています(同法第15条第2項)。第1回の期日は申立てから原則として40日以内に指定され(労働審判規則第13条)、申立てから終了までの平均的な期間は3か月弱です。

申立書の受領から第1回の期日まで

裁判所から申立書の写し、期日の呼出状及び答弁書の提出期限の通知が送達されます。答弁書の提出期限は第1回の期日の1週間から10日前に設定されることが通常であり、会社が準備に使える期間は実質的に3週間から4週間です。この期間に、事実関係の調査、関係者からの聴取、証拠の収集、答弁書及び証拠説明書の作成、並びに第1回の期日に出席する会社関係者の選定と準備を行います。答弁書には、申立ての趣旨に対する答弁、申立書に記載された事実に対する認否、予想される争点及び争点に関連する重要な事実、争点ごとの証拠、並びに交渉の経過その他の申立てに至る経緯の概要を記載しなければなりません(労働審判規則第16条)。第1回の期日の後に新たな主張や証拠を提出しても、労働審判委員会の心証に十分に反映されないことが多いため、答弁書の段階で主張と証拠を出し尽くすことが必要です。

第1回の期日

行われること

第1回の期日は、通常2時間から3時間程度が確保され、次の順序で進みます。まず、労働審判官が申立書と答弁書の内容を踏まえて争点を整理します。次に、労働審判委員会が、申立人本人及び会社の関係者に対し、争点に関する事実を直接に質問します。これは、訴訟における当事者尋問に相当するものですが、代理人による主尋問と反対尋問の形式ではなく、労働審判委員会が当事者に交互に質問する形式で行われます。質問は、解雇事件であれば、問題とされた行為の具体的な内容、注意及び指導の時期と方法、改善の機会の付与、解雇に至る手続等に、割増賃金事件であれば、労働時間の管理の方法、始業及び終業の時刻の記録、業務の実態等に及びます。質問が終わると、労働審判委員会は評議を行い、暫定的な心証を踏まえて、その日のうちに調停を試みることが一般的です。当事者を交互に別室に呼び、心証の概要と調停案の方向性を示して意向を確認します。

会社側の対応

第1回の期日には、代理人のほか、事実関係を直接に知る会社関係者(解雇事件であれば直属の上司や人事担当者、割増賃金事件であれば労働時間の管理を行っていた者)が出席する必要があります。労働審判委員会の質問には、その場で事実に基づいて答えることが求められ、「確認して後日回答する」という対応は心証を害します。出席者は、答弁書と証拠の内容を十分に把握し、想定される質問への回答を事前に準備しておきます。他方、事実と異なる説明や記憶にないことの断定は、後の期日や訴訟において信用性を失う原因となりますので、記憶にないことは記憶にないと答えます。調停の打診に対しては、会社としての解決の方針(金銭解決の可否と上限、復職の可否、退職日、離職理由、口外禁止条項の要否等)を事前に社内で決めておき、期日において即座に判断できるようにしておきます。

第2回の期日

行われること

第1回の期日で調停が成立しなかった場合、第2回の期日は、第1回の期日の2週間から4週間後に指定されます。第2回の期日は、第1回の期日で確認しきれなかった事実についての補充的な質問と、調停の続行が中心となります。第1回の期日において労働審判委員会から補充の主張や証拠の提出を求められた事項について、期日前に補充書面を提出します。労働審判委員会は、第2回の期日までに心証をほぼ固めており、調停案は、その心証に基づく審判の内容に近いものとして示されます。

会社側の対応

第2回の期日における調停案は、労働審判委員会が審判をした場合の内容に近いものと理解して検討します。調停案を受け入れない場合、審判に移行し、審判の内容は調停案とおおむね同じか、会社にとってより不利となることが少なくありません。調停案の検討に際しては、審判に対して異議を申し立てて訴訟に移行した場合の見通し、訴訟に要する期間(1年から2年程度)と費用、解雇無効の主張が認められた場合の判決までの賃金(いわゆるバックペイ)の累積額、及び復職の現実性を比較します。調停の内容には、解決金の額と支払時期のほか、退職の合意と退職日、離職理由(会社都合か自己都合か)、未払賃金や解決金の税務上の取扱い、清算条項、口外禁止条項、及び会社の他の従業員への説明の方法等を含めることを検討します。

第3回の期日と審判

行われること

第3回の期日は、調停の最終的な試みと、調停が成立しない場合の審理の終結及び労働審判の告知のために開かれます。労働審判は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえ、事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行うものであり(労働審判法第20条第1項)、解雇無効を前提としつつ金銭の支払と引換えに退職とする内容等、権利関係の確認にとどまらない柔軟な内容を定めることができます。労働審判は、期日において口頭で告知されるか、審判書が送達されます。

異議の申立てと訴訟への移行

当事者は、審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ、適法な異議の申立てがあれば労働審判は効力を失い、労働審判の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされて、通常の訴訟に移行します(同法第21条、第22条)。異議の申立てがなければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有し(同法第21条第4項)、強制執行の債務名義となります。会社が異議を申し立てるかどうかは、訴訟における勝訴の見通し、訴訟に要する期間と費用、バックペイの累積、及び他の従業員への影響を総合して判断します。労働審判の結果は訴訟の裁判官を拘束しませんが、労働審判の記録の一部は訴訟に引き継がれ、労働審判で会社側が主張した事実と矛盾する主張を訴訟で行うことは困難です。

労働審判をしない場合の終了

事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判委員会は労働審判をせずに手続を終了させることができます(同法第24条)。この場合も訴訟に移行します。争点が多岐にわたる事件、証人尋問を要する事件、当事者の対立が激しく調停の見込みがない事件等で用いられます。

調停が成立した場合の履行

調停が成立すると、調停調書が作成され、裁判上の和解と同一の効力を有します。会社は、調停調書に定められた期限までに解決金等を支払います。支払が遅れた場合、申立人は調停調書に基づいて強制執行を申し立てることができます。解決金の税務上の取扱い(給与所得としての源泉徴収の要否、退職所得又は一時所得としての取扱い)は、調停調書における金銭の性質の記載により変わりますので、調停条項の作成の段階で確認します。

期日における会社側の留意点

第一に、労働審判委員会は労働関係の実務に精通した構成員により、事実の細部を直接に質問しますので、抽象的な説明や書面の朗読では対応できません。第二に、3回以内の期日という制約により、第1回の期日で心証の大半が形成されますので、第1回の期日までに主張と証拠を出し尽くします。第三に、調停案は審判の内容の予告であることを前提として、感情的な判断ではなく、訴訟に移行した場合の見通しとの比較により判断します。第四に、労働審判の期日は非公開ですが(同法第16条)、労働審判における会社側の説明は訴訟に移行した場合にも引き継がれることを前提として、一貫した説明を行います。第五に、労働審判の申立てを受けたことを理由に申立人に不利益な取扱いを行うことは、別途の紛争の原因となりますので、在職中の従業員が申立人である場合には、期日への出席のための休暇の取扱いを含め、慎重に対応します。

弁護士に相談する時期と、費用の考え方

労働審判は、申立書の受領から第1回の期日までの3週間から4週間で準備を終える必要があり、この期間に答弁書と証拠の準備を行うことが結果を左右しますので、申立書を受領した当日に御相談いただくことをお勧めします。当事務所では、使用者側の立場から、事実関係の調査と証拠の整理、答弁書及び補充書面の作成、期日への出席と会社関係者の準備、調停案の検討と調停条項の作成、並びに異議の申立て後の訴訟への対応を取り扱っています。費用は、事案の内容、請求額及び関与の範囲に応じて事前に御説明します。

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よくあるご質問

第1回の期日には社長が出席しなければなりませんか。

代表者の出席が法律上必要なわけではありませんが、事実関係を直接に知る者(直属の上司、人事担当者等)の出席は不可欠です。調停の判断をその場で行うために、解決の方針について決定権限を有する者が出席するか、又は即時に連絡が取れる体制を整えてください。

第1回の期日で提出できなかった証拠を第2回の期日で提出できますか。

提出自体は可能ですが、労働審判委員会の心証は第1回の期日で大半が形成されますので、十分に反映されないことが多いです。第1回の期日までに出し尽くすことが原則です。

調停案の金額が高いと感じます。拒否して審判を待つべきですか。

調停案は労働審判委員会の心証に基づくものであり、審判の内容はこれとおおむね同じか、会社にとってより不利となることが少なくありません。拒否する場合は、審判に異議を申し立てて訴訟で争う見通し、期間、費用及びバックペイの累積を踏まえて判断してください。

審判に異議を申し立てると、労働審判での主張はどうなりますか。

労働審判は効力を失い、訴訟に移行します。労働審判の結果は訴訟の裁判官を拘束しませんが、記録の一部は引き継がれ、労働審判で行った説明と矛盾する主張を訴訟で行うことは困難です。労働審判の段階から、訴訟を見据えた一貫した主張を行う必要があります。

労働審判の内容は公開されますか。

労働審判の期日は非公開です(労働審判法第16条)。ただし、訴訟に移行した場合、訴訟の口頭弁論は公開されます。調停において口外禁止条項を定めることにより、当事者間で解決の内容を第三者に開示しないことを合意することができます。

まとめ

労働審判は、3回以内の期日で審理を終え、第1回の期日において労働審判委員会が当事者に直接に質問し、その日のうちに調停を試みる手続です。会社側の対応は、第1回の期日までに主張と証拠を出し尽くすこと、期日において事実を直接に知る者が的確に答えること、及び調停案を審判の内容の予告として訴訟に移行した場合の見通しと比較して判断することに集約されます。申立書を受領した場合には、直ちに使用者側の労働問題を取り扱う弁護士に御相談ください。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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