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本ページは、問題社員への対応と雇用の終了に関する実務に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 問題社員への対応|辞めさせる前に踏むべき手順を弁護士が解説(使用者側)
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従業員が心身の不調により欠勤を繰り返し、又は出勤しても業務に支障が生じている場合、会社としては、休職を命じるべきか、主治医の診断書をどこまで信頼してよいか、復職の可否を誰がどのように判断するか、休職期間が満了しても回復しない場合に退職として扱うことができるか、という順に判断を迫られます。結論から申し上げますと、休職と復職の問題は、就業規則の休職に関する定めを出発点とし、医学的な情報を会社が主体的に収集したうえで、休職命令、復職の可否の判断及び期間満了時の処理のそれぞれについて記録を残しながら進めることにより、後の紛争を防ぐことができます。逆に、本人の申出のままに休職と復職を繰り返させ、又は診断書を確認しないまま退職として扱うと、退職の効力が争われ、休職期間中の賃金相当額の支払を求められることになりかねません。本記事では、使用者側の立場から、休職命令、休職中の対応、復職の可否の判断及び休職期間満了時の手続を順に解説します。
問題社員への対応の全体像は、関連記事「問題社員への対応|辞めさせる前に踏むべき手順を弁護士が解説(使用者側)」を、勤務態度や能力を理由とする解雇と退職勧奨の限界は、関連記事「問題社員への対応|解雇の要件と、適法な退職勧奨の進め方(使用者側)」及び「退職勧奨が違法な退職の強要と評価される分岐点」をご覧ください。
休職制度の法的な性質
私傷病による休職は、法律上の制度ではなく、会社が就業規則において任意に設ける制度です。休職に関する定めを設ける場合には、就業規則の相対的必要記載事項(労働基準法第89条第10号)として記載し、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。私傷病休職の法的な性質は、業務外の傷病により労務の提供ができない従業員について、直ちに解雇するのではなく、一定の期間、回復を待って雇用を維持するという解雇の猶予の措置であると理解されています。この理解から、休職期間が満了しても復職できない場合には、就業規則の定めに従い、退職又は解雇として雇用を終了させることが認められる一方、休職の命令、復職の判断及び期間満了時の処理のいずれも、就業規則の定めに基づき、合理的に行われなければならないという帰結が導かれます。
なお、業務上の傷病による療養のための休業については、私傷病休職とは全く異なる規律が適用されます。療養のために休業する期間及びその後30日間は、原則として解雇することができません(労働基準法第19条第1項)。従業員の精神的な不調が長時間労働やハラスメントに起因すると主張される場合には、私傷病休職として処理した後に業務上の傷病であったことが判明し、退職の効力が否定されるおそれがありますので、休職の命令に先立ち、発症の経緯と業務との関係を確認しておく必要があります。
休職を命じる場面
休職命令の根拠と要件
休職は、本人の申出を待って認めるものとして運用されることが多いのですが、就業規則に「業務外の傷病により一定期間欠勤したとき」「業務外の傷病により通常の労務の提供ができないと会社が認めたとき」等の要件を定めておけば、会社は、本人の申出がなくても休職を命じることができます。欠勤を繰り返しながら休職の申出をしない従業員や、出勤はしているものの業務の遂行が困難な従業員については、会社が主体的に医学的な情報を収集し、要件を満たすと判断した場合には休職を命じます。休職命令は書面で行い、休職の期間、休職中の賃金の取扱い、復職の手続及び期間満了時の取扱いを明示します。
受診命令と主治医の診断書
従業員の健康状態を把握するため、会社は、就業規則に根拠の定めがある場合、又は定めがなくても合理的かつ相当な理由がある場合には、従業員に対し、医師の診断を受けることを命じることができると解されています。主治医の診断書は重要な資料ですが、主治医は本人の申告に基づいて診断し、業務の内容や職場の状況を必ずしも把握していないため、会社としては、本人の同意を得たうえで主治医と面談し、又は会社の指定する医師若しくは産業医(労働安全衛生法第13条。常時50人以上の労働者を使用する事業場に選任義務があります。)の意見を求めることが必要です。従業員が正当な理由なく受診命令に従わない場合には、会社は、把握できる情報に基づいて判断せざるを得ませんので、その旨を書面で告げたうえで判断します。
休職期間の設定
休職期間の長さは、勤続年数に応じて3か月から1年6か月程度の範囲で定める例が多く見られますが、法律上の制限はありません。同一又は類似の傷病により休職と復職を繰り返す従業員への対応として、復職後一定期間内に同一又は類似の傷病により再び休職する場合には休職期間を通算する旨の定めを置くことが重要です。この定めがない場合、短期間の復職を挟むことにより休職期間が事実上無制限となることがあります。
休職中の賃金と社会保険
休職中の賃金は、就業規則の定めによりますが、無給とする例が一般的です。無給の場合であっても、健康保険の被保険者である従業員は、一定の要件のもとで傷病手当金(健康保険法第99条。支給を始めた日から通算して1年6か月に達する日まで。)の支給を受けることができますので、休職の命令に際して手続を案内します。休職中も社会保険の被保険者資格は継続し、保険料の従業員負担分が発生しますので、その徴収の方法(本人からの振込等)を定めておきます。休職期間中は、会社から定期的に連絡を取り、療養の状況を確認するとともに、連絡の窓口を一本化し、上司や同僚が個別に連絡して回復を妨げることのないようにします。
復職の可否の判断
復職の基準
復職を認めるか否かは、会社が判断します。その基準は、休職事由が消滅したこと、すなわち、従前の職務を通常の程度に行うことができる健康状態に回復したことです。もっとも、最高裁判所の判例上、職種や業務内容を限定せずに雇用された従業員については、従前の業務を直ちに十全に行うことができなくても、その能力、経験、地位、会社の規模及び業種、配置や異動の実情等に照らして、配置することが現実的に可能な他の業務があり、本人がその業務への就労を申し出ている場合には、労務の提供が可能であると判断され得るとされています。したがって、会社は、従前の業務への復帰が困難であるという理由のみで直ちに復職を拒むのではなく、配置可能な業務の有無を検討し、その検討の過程を記録に残す必要があります。他方、職種を限定して雇用された従業員については、限定された職種の業務を行うことができるか否かにより判断します。
主治医と産業医の意見が分かれる場合
主治医の診断書に「復職可能」と記載されている一方、産業医が復職に慎重な意見を述べる場合があります。主治医の診断は日常生活における回復の程度を基準としていることが多いのに対し、産業医は業務の内容と職場の状況を踏まえて判断しますので、両者の意見が分かれること自体は珍しくありません。会社としては、本人の同意を得て主治医に業務の内容を伝えたうえで改めて意見を求め、産業医の意見と併せて総合的に判断します。医学的な意見を軽視して復職を拒否した場合には、復職拒否が違法と判断され、復職を認めるべきであった日以降の賃金の支払を命じられるおそれがありますので、判断の根拠となった医学的な意見を書面で保存しておくことが重要です。
試し出勤と段階的な復職
復職の可否の判断に先立ち、休職期間中に一定期間出社させて職場への適応の状況を確認する試し出勤(リハビリ出勤)の制度を設ける会社があります。試し出勤は、休職中の措置として行われるものであり、その間の身分、業務命令の有無、賃金の支払の要否及び通勤途上や勤務中の事故の取扱いについて、あらかじめ定めておく必要があります。試し出勤中に会社の指揮命令のもとで業務を行わせた場合には、労働として賃金の支払義務が生じ得ますので、業務を行わせず出社と滞在のみとするか、業務を行わせる場合には賃金を支払うかを明確にします。復職を認める場合にも、当初は所定労働時間を短縮し、又は業務の負荷を軽減する等の段階的な復職の計画を立て、産業医の意見を踏まえて定期的に見直します。
休職期間満了時の処理
退職と解雇の区別
休職期間が満了しても休職事由が消滅しない場合の取扱いは、就業規則の定めによります。就業規則に「休職期間が満了しても復職できないときは退職とする」と定めている場合には、期間の満了により当然に雇用が終了する自然退職として扱われ、解雇の手続は不要です。「解雇する」と定めている場合には、解雇として、30日前の予告又は予告手当の支払(労働基準法第20条)が必要となり、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用を受けます。いずれの定めであっても、休職事由が消滅していないこと、すなわち、復職が可能な健康状態に回復していないことを、医学的な意見に基づいて会社が説明できることが前提となります。
期間満了前の対応
休職期間の満了が近づいた時点で、会社は、本人に対し、満了日、復職の申出の手続及び復職できない場合の取扱いを書面で通知し、復職の申出があれば、前記の基準に従って可否を判断します。満了日の直前に復職の申出がされ、判断のための時間が足りない場合であっても、判断を尽くさずに退職として扱うことは避け、必要に応じて休職期間を短期間延長したうえで判断します。退職として扱う場合には、退職の日付、根拠となる就業規則の条項及び判断の理由を記載した通知書を交付し、離職票等の手続を行います。
業務起因性の主張への備え
退職の通知を受けた従業員が、不調の原因は長時間労働やハラスメントであり業務上の傷病に当たると主張し、労働基準監督署に労災の申請を行うことがあります。労災と認定された場合、療養のための休業期間中の解雇は無効となり(労働基準法第19条第1項)、自然退職の定めの適用も否定され得ます。心理的な負荷による精神障害の労災認定は、発症前おおむね6か月間の業務による心理的負荷の強度を評価して行われますので、会社は、休職の命令に至る経緯の中で、当該従業員の労働時間の記録、業務の内容の変化、ハラスメントの申告の有無等を確認し、業務との関係について会社としての見解を整理しておきます。
予防のための整備と、M&Aにおける確認
休職と復職をめぐる紛争の多くは、就業規則の定めの不備に起因します。休職の要件、期間、通算の定め、休職中の賃金及び社会保険料の取扱い、受診命令の根拠、復職の手続と判断の基準、試し出勤の取扱い、並びに期間満了時の取扱いを、就業規則に具体的に定めておくことが、最も有効な予防策です。従業員の心身の健康については、会社は安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っており、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェック(労働安全衛生法第66条の10)の実施が義務付けられています。また、M&Aにおいて対象会社に休職中の従業員がいる場合、買主は、休職者の人数、休職の理由、休職期間の満了日、復職の見込み及び業務起因性の主張の有無を労務デュー・ディリジェンスにおいて確認し、復職後の配置の負担や紛争の可能性を評価します。労務デュー・ディリジェンスにおける確認事項は、関連記事「労務コンプライアンスの整備|紛争を未然に防ぐ体制づくりと偶発債務の把握」をご覧ください。
弁護士に相談する時期と、費用の考え方
休職と復職の問題は、休職を命じる時点、復職の可否を判断する時点及び休職期間の満了が近づいた時点のそれぞれで、その後の紛争の帰趨を左右する判断を要します。特に、復職の拒否と期間満了による退職の処理は、後に賃金相当額の請求を伴う紛争となりやすいため、判断の前にご相談いただくことをお勧めします。当事務所では、使用者側の立場から、就業規則の休職に関する定めの整備、休職命令及び受診命令の書面の作成、主治医及び産業医の意見の収集と評価に関する助言、復職の可否の判断と期間満了時の通知書の作成、並びに紛争となった場合の交渉、労働審判及び訴訟への対応を取り扱っています。費用は、事案の内容と関与の範囲に応じて事前にご説明します。
よくあるご質問
欠勤を繰り返す従業員が休職を申し出ません。会社から休職を命じることはできますか。
就業規則に、一定期間の欠勤や通常の労務の提供ができない状態を休職の要件として定めていれば、会社から休職を命じることができます。命じるに先立ち、医師の診断を受けさせ、医学的な情報に基づいて要件を満たすことを確認し、書面により命じてください。
主治医の診断書には復職可能と書かれていますが、明らかに回復していないように見えます。復職を拒否できますか。
主治医の診断書のみで復職を認めなければならないわけではありません。本人の同意を得て主治医に業務の内容を伝えて意見を求め、産業医又は会社の指定する医師の意見を得たうえで、総合的に判断してください。医学的な意見の裏付けなく復職を拒否すると、拒否の日以降の賃金の支払を命じられるおそれがあります。
復職して数週間で再び休み始めました。休職期間はどうなりますか。
就業規則に休職期間の通算の定めがあれば、復職前の休職期間と通算し、残りの期間を上限として再度休職を命じることができます。通算の定めがない場合には、新たに休職期間が始まると解釈される可能性がありますので、就業規則の改定を検討してください。
休職期間が満了しました。解雇の予告は必要ですか。
就業規則が期間満了による退職(自然退職)を定めている場合には、解雇ではありませんので予告は不要です。解雇と定めている場合には、30日前の予告又は予告手当の支払が必要です。いずれの場合も、復職が可能な状態に回復していないことを医学的な意見に基づいて説明できることが前提です。
従業員が、不調の原因は上司のパワーハラスメントであると主張しています。私傷病休職として扱ってよいですか。
業務上の傷病である可能性が主張されている場合、まずハラスメントの申告として事実の調査を行い、労働時間の記録等と併せて業務との関係を確認してください。業務上の傷病と認められる場合には、療養のための休業期間中の解雇や退職の扱いは認められません。調査の進め方は、関連記事「ハラスメントの申告を受けた会社が行う事実の調査と認定の手順」をご覧ください。
まとめ
私傷病による休職は解雇の猶予の措置であり、休職命令、復職の可否の判断及び期間満了時の処理は、いずれも就業規則の定めに基づき、医学的な意見を会社が主体的に収集したうえで、記録を残しながら行う必要があります。復職の可否は、従前の業務への復帰の可能性に加えて配置可能な業務の有無を検討して判断し、主治医と産業医の意見が分かれる場合には双方の意見を踏まえて総合的に判断します。休職期間の満了による退職の処理は、業務起因性の主張への備えを含めて慎重に行う必要があります。就業規則の整備が最も有効な予防策であり、判断に迷う場面では、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士にご相談ください。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
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