固定残業代の制度とは?有効とされるための要件と、差額の支払の要否

M&Aのデュー・ディリジェンスで対象会社の賃金規程を確認したところ、役職手当などの名目で残業代を支払い済みと扱っているが、就業規則にも雇用契約書にもその旨の記載が見当たらない。

本記事は、M&Aの対象会社で採用されている固定残業代(みなし残業代)の定めを点検し、未払賃金という偶発債務として把握しようとしている買主等の方に向けたものです。元従業員から請求を受けて固定残業代の有効性を主張したい方は、固定残業代の定めが有効と認められるための要件と反論の組み立て方をご覧ください。

固定残業代が有効な残業代の支払と認められるには、その手当が実質的に時間外労働の対価であること、法定の額が支払われているかを判定できる明確な指標があること、法定の額を下回るときは差額を精算する合意又は取扱いがあることが必要です。これらを満たさない場合、役職手当等を支給していても未払賃金が発生していると考えられます。以下、順にご説明します。

特に、中小企業、零細企業においては、適切にみなし残業代制度を導入していないために、未払賃金・退職金等が発生してしまっていることが多いです。

すなわち、対象会社としては、みなし残業代制度により、一定時間数の残業代が、各種手当、固定残業代として支払済みもしくは基本給に包含されていると思っているところ、法令上、実際には、みなし残業代制度導入の要件を満たしていないために、未払賃金・退職金等が発生していると評価されるケースが多い点について、留意する必要があります。

対象会社が、みなし残業代制度に基づき、定額の時間外手当を、基本給や他の手当と明確に区別した手当として支給したと考えていたとしても、みなし残業代制度については、①当該手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有していること、②定額残業代として労働基準法所定の額が支払われているか否かを判定することができるよう、その約定の中に明確な指標が存在していること、③当該定額の時間外手当が労働基準法所定の額を下回るときは、その差額を当該賃金に支払時期に精算するとの合意が存在するか、あるいは少なくともそうした取扱いが確立していること、という要件を求める裁判例が存在しているため、対象会社において導入されているみなし残業代制度が適法かどうか慎重に検討する必要があります。

また、最高裁判所の判決に付された補足意見においても、毎月の給与の中にあらかじめ一定時間分の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている場合には、その旨が雇用契約上明確にされていること、支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること、及び当該時間数を超えて残業が行われた場合には別途上乗せして残業手当を支給する旨があらかじめ明らかにされていることが必要であるとの考え方が示されており、対象会社において導入されているみなし残業代制度が適法かどうか検討する際には、この点も留意する必要があります。

なお、対象会社が、残業代が基本給に含まれて支払われていると考えている場合は、①基本給のうち時間外手当に当たる部分を明確に区分して合意し、かつ②労働基準法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払日に支払うことを合意した場合のみ、その部分を残業代と評価できるとする最高裁判所の判例があり、対象会社において導入されているみなし残業代制度が適法かどうか検討する際には、この点も留意する必要があります。

すなわち、事業承継M&Aの対象会社である中小企業、零細企業においては、実際に、残業代が、定額の時間外手当として支給されている場合、上記要件を満たさない場合がしばしば見られるため、対象会社の雇用契約書・就業規則(賃金規定を含む)、賃金台帳、給与明細等を確認する必要があります。

みなし残業手当の支給が有効な時間外手当の支給と認められるためには、裁判例上、①当該手当が実質的に時間外手当の対価としての性格を有すること、②定額残業代として労働基準法所定の額が支払われている否かを判定することができるよう、その約定(合意)の中に明確な指標が存在していること、③当該手当が労働基準法所定の時間外手当の額を下回る時は、その差額を当該賃金の支払い時期に精算するという合意が存在するか、あるいはそうした取り扱いが確立されていることが要件となります。

これに鑑みると、多くの会社においては、就業規則上も、個別の内定通知書上も、役職手当が「みなし残業代」である旨は一切記載されておらず、②の要件を満たさないことが明らかであり、時間外労働時間の時間管理もなされておらず、結果として、③当該手当が時間外手当の額を下回る時においても、この差額の支給を支払うという取り扱いになっていないケースが多いです。

このような状況下においては、①の要件がみたされているかを検討するまでもなく、役職手当の支給をもって、「みなし残業代」の支給とみなすことはできないということになります。

よって、このような会社においては、労働者が時間外労働を行っているにもかかわらず、これに対応する賃金を一切支払っていない場合、役職手当が支給されていても、会社においては、未払い賃金が発生していると考えられる点、留意する必要があります。

⇒固定残業代の定めが有効と認められるための要件と反論の組み立て方はこちら

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継、企業法務及び不動産に関する法律問題

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

お問い合わせ

この記事に関連するお問い合わせは、弁護士法人M&A総合法律事務所にいつにてもお問い合わせください。ご不明な点等ございましたら、いつにてもお問い合わせいただけましたら幸いです。







    ※ いずれか一つをお選びください。「〜1000万」は500万円以上1000万円未満を指します。多忙のため「〜500万」の場合はコールバックいたしません。ご依頼意思が強い場合のみお電話ください。





    入力内容をご確認の上、
    送信ボタンを押してください

    弁護士法人M&A総合法律事務所メールマガジン

    M&Aの最新情報や弁護士法人M&A総合法律事務所のセミナー情報が届きます。
    メールアドレスを入力してお申込みください。

    セミナー情報と書籍・電子書籍の謹呈

     

    ABOUT US
    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
    お問い合わせ 03-6435-8418