元従業員から過剰な残業代を請求されたら?対応の方法
公開 2019年3月23日更新 2026年10月30日

▶ 残業代請求への対応|元従業員から請求された場合の反論の組み立て方(使用者側)
本記事は、退職した元従業員から実態と離れた過大な残業代を請求する書面を受け取り、初動として何をすべきかを確かめたい会社の経営者及び人事担当者の方に向けたものです。反論の類型の整理と和解の条件の検討に進みたい方は、元従業員からの残業代の請求を受けた場合の対応|反論の類型(労働時間・固定残業代・管理監督者・時効)と和解の実務(使用者側)をご覧ください。
「辞めた社員から残業代の請求が届いているけれど、この数字はかなり残業の実態と離れているぞ」
「うちはみなし残業代を支給しているし、そもそも残業をしないようにさせていたのに、なぜこんな仕打ちを受けるんだろうか」
「再就職がうまくいっていない腹いせに、残業代請求してきたのだろうか」
会社を辞めた元社員から書留速達が届いていて、嫌な予感をしながら封筒を開けてみると「残業代請求」の用紙だったりします。
心臓にも悪いですし、ほとんどのケースでは脅し文句のような手紙がついています。
届いた封筒の中身に書いてある残業代が明らかに残業時間よりも多い場合には、しっかりと時効になっている部分を確認して対処する必要があります。
この文章を読めば、どのように過剰な残業代請求に対処するか知ることができます。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
残業代の請求への対応は、段階と争点によって参照すべき記事が異なりますので、次のとおり切り分けます。
- 請求書又は内容証明郵便を受領した直後に、初動として何を行い、何を行ってはならないかを確認する場面……本記事
- 反論の類型を整理し、和解の条件を検討する場面……元従業員からの残業代の請求を受けた場合の対応|反論の類型(労働時間・固定残業代・管理監督者・時効)と和解の実務(使用者側)
- 固定残業代の定めが有効かどうかを検討する場面……固定残業代の定めが有効と認められるための要件と反論の組み立て方
- 請求者が管理監督者に該当するかを検討する場面……管理職の従業員から残業代を請求された場合の対応
- 営業職について事業場外みなし労働時間制の適用を検討する場面……営業職社員から残業代を請求された場合の対応
- 労働審判の申立てを受けた場合の初動を確認する場面……労働審判の申立てを受けてから第1回の期日までに会社が行うこと
- 残業代の支払義務は消滅時効が完成していない期間の分に限られます
- 給与資料は防衛策としてしっかりと残しておこう!
- 従業員の主張している残業時間が、多すぎる
- みなし残業、固定残業代という名目で残業代はすでに支払い済である
- 弁護士に依頼しないと、かなり厳しい状態に追い込まれる可能性の高い事例
- 管理職だった社員が残業未払いについて訴えてきた
- ユニオン(外部労組)がでてきたときの対処法
- 残業禁止令だけでは、残業をさせていなかった証拠にはならない
- 残業代を過剰請求してくる従業員の問題行動は探っておこう
- 未払い残業代の請求が来たら、すぐに対処したほうが良い理由
- 総務人事だけでは対処できない経営者の判断すべきケースについて
- 総務人事だけでは対応しきれないケースも多い
- 元従業員から過剰な残業代の請求が来たら、弁護士に相談をしよう。
残業代の支払義務は消滅時効が完成していない期間の分に限られます
残業代を勤続していた年数分請求してくる社員が多く存在しますが、賃金請求権には消滅時効があり、令和2年4月1日以降に支払期日が到来した賃金については支払期日から3年(労働基準法第115条及び同法附則第143条第3項。法律上の原則は5年ですが、当分の間3年とされています。)、それより前に支払期日が到来した賃金については2年で消滅時効が完成します。したがって、会社に支払義務があるのは、消滅時効が完成していない期間の分に限られます。
つまり、ある日、突然、残業代を請求されても、支払期日から3年(令和2年3月31日以前に支払期日が到来した分については2年)を経過している部分については、消滅時効を援用することにより支払を免れることができます。ただし、消滅時効は会社が援用しなければ効果が生じませんので(民法第145条)、時効の完成を認識しないまま支払義務を認める回答をしないよう注意が必要です。
退職日から3年以上を経過した後に請求が来た場合には、通常、全ての期間について消滅時効が完成しています。
残業代が過剰請求になりがちなのは、勤続していたすべての期間分の残業代を請求されてしまうからということも多いです。
毅然とした対応をとるようにしましょう。
給与資料は防衛策としてしっかりと残しておこう!
辞めてしまった社員の給与資料や、履歴書などは速やかに破棄するという会社が多いです。
履歴書は個人情報保護の観点から捨ててしまったほうが良いですが、給与支給明細書は紙ベースで必ず残しておきましょう。
いきなり残業代請求が届いても慌てずに済みますし、せめて退職日のデータだけでもあれば時効が成立しているかどうか調べることができます。
従業員の主張している残業時間が、多すぎる
従業員の主張している残業時間が、実態よりもあまりにも多すぎるということがあります。
例えば、従業員が喫煙者であった場合、残業時間中にずっとタバコ休憩に行っていたというケースもあります。
休憩室でお茶を飲んでいる時間にタイムカードを切らずに休憩をしていたりすると、実際の労働時間ではないにも関わらず残業代がついてしまうことになります。
本当にタイムカードの時間通りに残業していたのか、また残業をしていたのならなぜ、就業していた時代に正当な権利として主張して残業代を得ようとしなかったのかなど、反論できるようにしておきましょう。
みなし残業、固定残業代という名目で残業代はすでに支払い済である
みなし残業代や、固定残業代としてすでに残業代を支給済であると反論することも可能です。
但し、注意すべき点として、仮に残業代を固定で毎月30時間支払っていたとしても、40時間残業した月があり、その部分について支払いがないと未払いと言われる可能性が高くなります。
正確な労働時間の把握は、会社の義務なので、しっかりと毎月の残業時間については目を光らせておく必要があります。
また、反論できる材料となるタイムカードなどがみなし残業制度の場合は、導入されていない企業もあります。
どうせ毎月固定的に残業代を支払うから、必要ないといって導入しないと、相手の主張通りに支払わなくてはならない可能性があります。
タイムカードだけは社員全員に持たせておく必要性があります。
元従業員からの残業代請求への請求額の確認と反論は、次のページでご案内しています。
弁護士に依頼しないと、かなり厳しい状態に追い込まれる可能性の高い事例
ここまでは事業所でなんとか対応できるレベルの残業代未払い対策です。
ここからは弁護士に依頼しないと、かなり厳しい状態に追い込まれる可能性の高い事例について紹介していきます。
残業代未払いをこじらせると、ブラック企業の汚名を着せられて会社の看板に傷がつくばかりか、優秀な社員を雇うことも難しくなります。
それを防ぐ意味でも、ここから先の事例に遭遇したら、弁護士に依頼を検討してください。
管理職だった社員が残業未払いについて訴えてきた
管理職だった社員や、経営幹部職だった社員が残業代未払いについて訴えてくると、非常にまずい状態になります。
会社の経営情報などを握っており、下手をすると労働基準法以外のコンプライアンス違反などに飛び火する可能性があるためです。
管理監督者(労働基準法第41条第2号)に該当する社員には、深夜労働の割増賃金を除いて、時間外労働及び休日労働の割増賃金を支給する必要はありません。もっとも、管理監督者に当たるかどうかは、課長職以上といった役職の名称ではなく、職務の内容、権限、勤務態様及び待遇の実態により判断されます。
- 課長職以上の職位にあるが、労働者性のある社員だったもの
- 店長など労務管理を行っていた社員
など、経営者に近い権限を付与された社員から残業代の請求が届いた場合は、弁護士に相談をすることをおススメします。
残業代を支払わなくても良い可能性は高くても、元管理職などが訴えを起こすと大きな問題に発展することがあるためです。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
ユニオン(外部労組)がでてきたときの対処法
残業代未払いの請求が書面だけで終わっている場合は、まだ救いがありますが、最悪の展開としてユニオン(外部労組)が出てくることも多々あります。
会社の所在地にもよりますが、ユニオンが出てくると、非常に交渉は大変になります。
ユニオンの役員が会社を訪れて強い調子で抗議したり、強硬な手段に訴えてくることもあります。
こうなると、弁護士に依頼するほかありません。
顧問弁護士をしっかりと抱えているならば対応できるトラブルですが、顧問弁護士といっても実は労働法に強い経営側弁護士は数が少なかったりします。
しっかりとユニオンに強い弁護士に依頼するようにしましょう。
労働組合からの団体交渉の申入れへの会社側の対応は、次のページでご案内しています。
残業禁止令だけでは、残業をさせていなかった証拠にはならない
会社をあげて働き方改革などを行っている企業ではなくとも、残業を禁止していたという弁明をしたいということがあります。
残業禁止令を出していただけでは基本的には不十分であり、管理職などから一般社員に対して一切の残業をしないように普段から口頭注意を行っていた、残業になりそうな場合は管理監督者性のある課長職以上のものに仕事を引き継いで帰るように指示していたなど、残業を防ぐ仕組みが機能していたかどうかが重要となってきます。
労働法に強い弁護士でないと、なかなか判断がつかないグレーな部分が多いため、弁護士に依頼したほうが良いと言えるケースです。
残業をさせないためにビルの電源ごと落としていたというような会社でも、実態としては社員が懐中電灯を持ち込んで仕事をしていたりするケースもあり、専門家でないともはや戦えないレベルの泥沼になりやすいのが、この残業禁止令です。
残業代を過剰請求してくる従業員の問題行動は探っておこう
残業代の過剰請求が来たら、社員の行動などはしっかりと探るようにしておきましょう。
私も経験していますが、経理部の社員が横領をしていたというケースがあります。
単純に仕事内容を深堀していくと、明らかに合わない勘定があり、探っていくとお金が明らかに個人にプールされているといったお粗末なものでした。
普段からしっかりと見張っていればこのようなことにはならなかったとはいえ、残業代を請求するなど、用意周到に経営者に対して揺さぶりをかけてくる社員は何らかの不正を行っていることもあり得ます。
強かなので、経営者の前ではニコニコしていて、いざとなるとお金を奪おうとしてくるということですね。
仮に何か不正を働いていた場合には、その不正による損害の賠償を請求し、和解の中で残業代の請求と併せて調整することもあり得ます(賃金の全額払の原則(労働基準法第24条第1項)により、会社が一方的に相殺することはできません)。
元従業員が金銭的な損害を会社に与えていないかどうかについては、しっかりと調査するようにしましょう。
未払い残業代の請求が来たら、すぐに対処したほうが良い理由
未払い残業代の請求が来たら、すぐに対処したほうが良い理由として、以下の理由があります。
- 未払い残業代の請求を放置すると、ユニオンなど、悪質な団体と交渉しなければならないことがあり得る
- 未払い残業代には遅延するほど利息が上乗せされる
- 基本的に放置して時間が経過するほど、対処を遅らせるほど、事態は悪化していく
さらに、未払い残業代をめぐって元社員と戦うことになると、もっとしんどいことになります。
- 労働局のあっせん対応
- 労働審判
- 労働審判をこじらせると、訴訟に発展
の対応に追われることになります。
労働局のあっせんとは、労働局に元社員が出向いて、労働局員を間に挟んで会社側の言い分と労働者側の言い分を双方で言い合い、最後は金銭解決にもっていくというものです。
お金だけで終わるだけならまだ良いですが、さらに問題がこじれると今度は労働審判という軽い裁判のようなものに突入することもあり得ます。
労働審判の場合は、しっかりとした弁護士を代理人に立てないと、会社側の負けとなることが圧倒的に多いです。
和解金を支払うことでほとんどは決着がつきますが、労働審判をこじらせると訴訟に発展して、事件として社会的な注目を集めてしまいます。
こうなると、最悪はブラック企業という扱いを受けてしまうことになります。
あくまでも火が大きくなる前に早く消火活動を行う必要があります。
総務人事だけでは対処できない経営者の判断すべきケースについて
ここまでは、総務人事だけでは対処しきれないケースについて紹介させていただきました。
ここからは、総務人事だけでは対処できない場合の、経営者の判断すべきことについて紹介させていただきます。
基本的には総務人事だけでは対処しきれない場合、弁護士などの専門家に依頼することで、本業に差し支えなく残業代請求に対処することが可能となります。
総務人事だけでは対応しきれないケースも多い
企業内に総務人事を雇用しており、彼らがなんとかしてくれるだろうという期待をかけておられる経営者の方は非常に多いです。
ケースによっては総務人事でもなんとか訴訟や労働審判に至らず、丸く収めることができる場合もありますが、ある一定のラインを超えると弁護士がいないと戦えない状態になります。
あくまでも話し合いと金銭解決で止まれば良いのですが、従業員側に正規の残業代を支給しても相手が納得しないと、結局は労働局のあっせんなどに発展します。
労働局のあっせんもまだ、社内に優秀な人事担当者がいれば何とか話し合いと金銭解決で決着することができます。
しかし、これ以上のラインになってくると、総務人事の担当者がいたとしても戦うことは難しくなります。
理由としては、法律のプロフェッショナルといえる弁護士でないと、労働審判の場では頼りないですし、相手方が弁護士などを立ててくると、同じレベルでは戦えなくなるためです。
相手が弁護士を立ててきたときは、会社側も弁護士を立てないと要求を丸ごと飲む羽目になりかねません。
まして訴訟などに発展してしまうと、もはや会社だけで戦うのは無理です。
元従業員から過剰な残業代の請求が来たら、弁護士に相談をしよう。
企業内に総務人事の担当者がいたとしても、従業員からの過大な残業代請求が来たとすれば、簡単に話が終わればよいですが、そうでないケースに発展することもあります。
会社内だけでなんとかしようとして、結果的には大金と経営者が本来仕事に割ける時間を失うといったケースも少なくありません。
できれば、深刻さの度合いをしっかりと経営者自身で確認し、「これはうちの総務人事では無理そうな案件だな」と感じたら、迷わず弁護士に依頼をするようにしましょう。
結果的には顧問弁護士を普段から依頼しておいたほうが良かったというケースは後を絶ちません。
いまあなたが好意的な目で見ている従業員がいつ、経営を脅かす敵になるのか分かりません。
弁護士との顧問契約を行い、確実に会社を守れる状態を構築しておきましょう。
出来れば労務トラブルは起こらないことが一番良いですが、なかなか労務トラブルを起こさずに事業を継続することは難しいといえます。
もしも元従業員から過剰な残業代請求が来た場合には、自社だけでは対応できないこともあるため、弁護士に頼るようにしてください。
社会的な信用も守られ、お金を守ることもできます。
この記事の位置付け
本ページは、残業代請求への対応と賃金制度の設計に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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執筆者
弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)
長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。
主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継、企業法務及び不動産に関する法律問題
所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
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