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本ページは、残業代請求への対応と賃金制度の設計に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 残業代請求への対応|元従業員から請求された場合の反論の組み立て方(使用者側)
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人事や経営者をされている方は、
「社員にあまりにやる気が感じられないけれど、給料を下げることはできるのかな」
「新型感染症の影響で売り上げがなくかなり厳しい。給料・ボーナスをカットする方法はないのだろうか」
と悩んでいませんか。
結論から申し上げますと、賃金の減額は労働条件の不利益変更ですので、賞与であるか毎月の給与であるかを問わず、法律上の根拠を欠いたまま一方的に行うことはできません。もっとも、根拠と手続を整えれば適法に実施し得る場合があります。
賞与は企業の業績や本人の評価を反映する性質を含むのに対し、毎月の給与は労働者の生活の基礎となるものであり、その減額はより厳格に判断されるためです。
給与の減額は、労働組合との団体交渉、労働審判又は訴訟に発展しやすい事項です。使用者は、労働組合から団体交渉の申入れを受けた場合、正当な理由なくこれを拒むことができません(労働組合法第7条第2号)。
⇒労働条件の不利益変更の限界(個別の同意と就業規則の変更)はこちら
給料・賞与の減額の方法
この記事を読めば、給料・ボーナスをカットする方法について理解することができます。
社員の給与やボーナスカットについて悩んでいる方は、ぜひ、最後まで読んでいって下さいね。
給与を下げることは労働基準法で厳しく制限されている
生活に必要な大切な給与を下げることは非常に難しいです。
労働基準法91条において「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」という規定があります。
参考:労働基準法91条
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労働基準法91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
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賃金の引下げがどの程度難しいかは、次のような裁判例の傾向からも分かります。
裁判例には、売上の急減を理由に会社が一律の賃金の引下げを行った事案において、労働者の個別の同意も就業規則の適法な変更もないまま行われた引下げを無効とし、差額の支払を命じたものがあります。裁判所は、会社が経営上の危機にあったとしても、労働者の同意又は労働契約法の定める手続によらない賃金の引下げは認められないとの立場を採っています。
賞与は支給基準の定め方によって取扱いが異なる
賞与につきましては、支給基準の定め方によって取扱いが大きく異なります。
労働契約、就業規則又は労働協約に支給の基準が定められておらず、支給の有無及び額が使用者の裁量に委ねられている場合には、支給しないという判断もあり得ます。もっとも、その場合であっても、裁量の逸脱又は濫用と評価される取扱いは許されません。これに対し、支給の基準が定められ、これにより支給額が確定する場合には、労働者に具体的な請求権が生じますので、一方的に減額することはできません。
賞与は、その支給が企業の業績に左右される要素を含むためです。
もっとも、賞与も労働基準法第11条にいう賃金に当たりますので、支給の基準が定められている場合には、同法の規律に服します。
したがいまして、支給の基準が定められていない賞与は、毎月の給与に比べれば見直しの余地が大きいと申し上げることはできますが、一律に安全というわけではありません。
ただし、労働契約書に以下のような文言がある場合は注意をしましょう。
「賞与(ボーナス)の支給については、平均給与の4か月分を支給する」など、労働契約書などにうっかりと支給月数などを記載してしまうと契約を結んだという解釈になり支払う義務が出てくる可能性があります。
また、就業規則上で「賞与の支給については前年の期間中の評価ならびに会社の経営状況によって決定する」という場合も注意が必要です。
完全に業績連動だと就業規則に記載してある場合には問題ありませんが、前年の期間中の評価も勘案して支給するという文言を記載していると「業績が悪いのは理解したけれど、期間中の働きに応じた部分に関する賞与は支払いなさい」と判断される場合があります。
⇒労働条件の不利益変更の限界(個別の同意と就業規則の変更)はこちら
賃金の減額が適法となるための法律上の根拠
賃金の減額は労働条件の不利益変更ですので、次のいずれかの根拠を要します。
第一 労働者の個別の同意
労働者との合意により労働条件を変更する方法です(労働契約法第8条)。もっとも、賃金の減額に対する労働者の同意は、その旨の署名等があれば直ちに有効となるものではありません。最高裁判所は、労働者の同意の有無は、当該行為をするに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断すべきであるとしています。減額の理由、期間、金額及び復元の見込みを書面により具体的に説明し、質問の機会を設けたうえで、書面により同意を得る必要があります。
第二 就業規則の変更
就業規則を変更して賃金を引き下げる場合には、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、変更が合理的なものであることを要します(労働契約法第10条)。合理性は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして判断されます。賃金及び退職金は労働者にとって重要な労働条件ですので、その不利益変更につきましては、高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが求められます。
第三 労働協約
労働組合との間で労働協約を締結する方法です。当該組合の組合員に効力が及びます。
懲戒としての減給には別の制限があります
制裁として減給を行う場合には、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条)。
降格に伴う減額
役職を解く趣旨の降格と、職能資格を引き下げる趣旨の降格とは区別を要します。後者は賃金の減額に直結いたしますので、就業規則等の根拠を欠く場合には認められないのが通常です。
最低賃金
いずれの方法による場合でも、地域別最低賃金を下回る賃金を定めることはできません(最低賃金法第4条)。
給与を下げるための具体的な手順
「給与を下げることが絶対出来ないならどうしようもないじゃないか」と不安になりませんか。
従業員から有効な同意を得ることができれば、給与を下げることは可能です。もっとも、その同意は、上記のとおり自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要します。
出来る限り、労働組合や労働者代表との話し合いを重ねましょう。
具体的には、以下の方法があります。
- 評価制度改変と人事考課制度の抜根的見直し
- 労働組合と期間限定の賃下げについて話し合う
- 在宅勤務の導入により通勤手当その他の固定費を見直す
- 定年後の賃下げを規定化する
それぞれについて解説します。
評価制度改変と人事考課制度の抜根的見直し
評価制度の改変と人事考課制度の抜根的な見直しを行いましょう。
現在は事務職を筆頭にリモートワーク移行を検討する企業が多いです。
せっかくリモートワークに移行するのに前の評価制度のままにしておくことは実は非常にもったいないといえます。
リモートワーク移行時に「これまでとは異なる評価体系を導入する」と伝えることは実は非常に納得性が高いためです。
大手企業においても、職務内容を基準とするいわゆるジョブ型の雇用に評価制度を切り替える動きが広がっています。
これまで正社員だからなんとなく毎年昇給をしてきたけれど、これからは成果で評価をするという評価体系に切り替えることで少なくとも優秀ではない社員の賃金の過度な上昇を食い止めることができます。
実質的な賃金カットを達成できる可能性があります。
労働組合と期間限定の賃下げについて話し合う
労働組合と期間限定の賃下げについて話し合う方法があります。
重要なポイントは話し合いをし尽くすことです。
究極的にいえば裁判にさえ移行しないのであれば組合の合意がなくとも賃下げをすることは不可能ではありません。
ただし、労働組合と話し合いを徹底しておくことで賃下げで仮に裁判移行したとしても「少なくとも労働者の合意を取ろうと話し合いは徹底していた」という判断になることもあり得るためです。
期間を限定する意味としては、ずっと続く賃金の低下をそもそも労働組合が聞き入れる可能性が非常に低いため、一定の期間を定めて交渉をするほうが良いという理由があります。
経営状況が一時的に厳しいという場合には有効な方法であるといえます。
在宅勤務の導入により通勤手当その他の固定費を見直す
在宅勤務を導入し、通勤手当その他の固定費を見直すという方法があります。
もっとも、在宅勤務であっても労働基準法の労働時間の規制は当然に適用されます。時間外労働をさせた場合には、通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払う義務があります(労働基準法第37条第1項)。在宅勤務に移行すれば残業代が発生しなくなるということはありませんので、この点は誤解のないようご留意ください。
事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)を適用するためには、労働時間を算定し難いことが必要です。情報通信機器を通じて随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っている場合には、この要件を満たしませんので、みなし労働時間制を適用することはできません。
通勤手当につきましては、実際に通勤をしない期間について実費の支給を取りやめることは、支給の要件の定め方により可能な場合があります。他方、通勤手当が賃金の一部として一律に支給されている場合には、その廃止又は減額は労働条件の不利益変更に当たりますので、後述の根拠と手続を要します。
なお、自社ビルを保有していない企業においては、事務所の賃料の見直しが固定費の削減につながります。また、割増賃金や通勤手当が減少いたしますと、標準報酬月額の算定を通じて健康保険料及び厚生年金保険料の事業主負担も減少いたします。賃金そのものを引き下げる前に、これらの固定費を見直すという手順もご検討ください。
定年後の賃下げを規定化する
定年後の賃下げを規定化するようにしましょう。
最高裁判所の判例上、定年後に再雇用された嘱託社員の賃金が定年前より低いこと自体は、定年退職後の再雇用であること、老齢厚生年金の支給が予定されていること等の事情を考慮すれば直ちに不合理とはいえないとされています。もっとも、個々の手当については、その支給の趣旨に照らして不支給が不合理と判断されたものもあり、賃金項目ごとの検討が必要です。
年金支給開始年齢が引き上げられたことをきっかけに各企業が定年後の再雇用に関しては給与を引き下げる人事制度を導入しています。
定年をきっかけに再雇用に移行する段階で給与を引き下げることは合理的だということです。
⇒労働条件の不利益変更の限界(個別の同意と就業規則の変更)はこちら
給料カットは従業員と話し合いを重ね同意を得よう
給料カットは従業員と話し合いを重ねて同意を得るようにしましょう。
基本的にしっかりと同意をしていれば、裁判移行する可能性も低く、会社側の意見が通る可能性が高くなります。
ただし、同意を取ったと言ってもしっかりとしたプロセスを踏まなければ賃下げは難しい側面があります。
特に会社側が話し合いをしっかりとしたと思い込んでいても、従業員が一方的な賃下げだと感じた場合訴訟に移行する可能性が高く、敗訴する確率が高くなります。
給料カットを考えたら労働実務に詳しい弁護士に依頼し、制度設計から一緒に考えていくことをおすすめします。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。






















